第5話
同刻、配信にてコラボ配信を行っていた俺氏と水姫である。
「さて次は『俺×舞はありますか?』。これはどーなんです?」
「ない」
: ないんかい
: 俺たちは応援してんだけどな
: マジか
: えー
「いいんですかそんなこと言って。舞花先輩泣いちゃうよ?」
「逆に考えてみてほしい。既に内定決まりかけてた人間をこんな会社に引き摺り込むような人間だぞ?」
: いろんな意味で人生狂わされてて草
: よりにもよって御社
: 御社確定とかいうパワーワード
: 確かにそれは怖えな
「なので俺×舞はないです」
「断言しちゃった」
「つか炎上リスク背負いたくねえし........っ?!」
しかし俺氏に電流走る。
「水姫、今一瞬後ろに舞花のモデルだか立ち絵を表示させなかった?」
「いや、居たのは見ましたけど私は何もやってないですよ」
「え」
色ズレを起こし、フィルター効果によって一瞬だけモノクロになった仮想世界に浮かんだセピア色の2Dモデル。一瞬ながらも確実に、ノイズと共に舞花のモデルが背景に浮かんだのだ。
そしてそれを目撃していたのは彼らだけではない。
: え
: ファッ?!
: 舞花ちゃ?!
: 唐突なホラー
: ?!?!?!?!?
「......別ライバーのアカウントが配信に乗り込む時は凸待ちとかを除いて基本的に了承しないと入れないようになってるから舞花が悪戯しに来たということはないと思うな」
「ちなみに舞花先輩って今配信してるの?」
「収録があるから会社に居るはず」
「何で把握してるん?」
: 草
: 確かに何で把握してるんですかねー
: これは確定ですな
: デキてますね
「まさか同じ会社の人間に炎上させられかける日が来るとは。一番の敵は味方だということですな」
「悪戯したのは私でもないよ?」
「それは隣で見てるから百も承知だけどさあ、そういうことを言いたいんじゃなかったんだよ」
「バグ?」
「基本的にグラボがイカれても配信にノイズが乗ることはないからバグではない。それにもし処理落ちしてバグったとて急激にFPSが落ちてモノクロに反転、それに舞花だけセピアカラーになるはずはないだろうね」
「この短時間でそこまで見てたの普通に凄いんだけど」
「まあ仮にも動画編集で食ってた人間だし」
「となると会社側?」
「まあ運営の権限あれば配信ソフトなんか乗っ取れっからな」
「はえー、私最低限の知識しか知らなかったからバグだと思った」
「経験と勘」
不慣れな様子を上手く引き出す為にライバーの研修時点では基本的な使い方しか教えられないのだが、積んだ経験から既に配信用ソフトの特性と開発部門の信頼性を理解している俺氏にとって今回のバグは不可解なものだったのだ。故に運営の悪戯だと判断されたという訳である。
「......どうせ暇になったからとかいう理由で悪戯されたんだろうな」
「アテは?」
「君の同期」
「あー、やっぱりあの魔術技師だと思います~?」
トラッキングセンサーによって自動的にハイライトを失い、顔に若干の影がかかった水姫と俺氏は不穏な表情を浮かべていた。
*
『それでは挨拶をどうぞ』
【夜桜マヤ@新曲『デレマヤオーバーフロー』配信中です】: 株式会社アンカーVTuber事業運営事務所『Anchor_production』開発部門主任技術者の夜桜マヤと申します
【月待うたね@お昼寝中】: うたねだ。
『自己紹介の差が激しいな』
『片方はガチの所在名乗ってる気がするんだけど、大丈夫そ?』
【夜桜マヤ】: 大丈夫、サーバー権に差が出るだけで外見だけじゃ何処をどう見てもわかんないから
数十秒間のピン留めによってコメ欄の最上位に引っ張り上げられた私達は、暇なら参加してくれとのことで俺君の雑談枠にお邪魔することとなったのだ。ガチで邪魔していたはずがまさか配信にお邪魔することになるとは。
「本当にこれでよかったんですかね」
「まああいつらが良いって言ってんなら良いんじゃね?」
私達は現実での会話が出来る状態にする為に片耳ずつイヤホンを分け、互いの持っているスマホやパソコンから配信にコメントを放り込むことで配信に参加するという形をとった。
: 唐突なコラボの上にまたコラボを重ねるとは
: 完全にやべえノリ
: サーバー権www
: バラしても問題ない場所は惜しみなくバラしてくスタイル
: バラしちゃダメなところですらぶち込んでいくスタイル
【夜桜マヤ】: 今回はコメント欄から参加するので皆様が何を言っているかがしっかりと見えて良いですねえ^^
: ひっ.......
: こわいんだが
【月待うたね】: 怖いねこの人
: そういえばこの人幻想の管理者だったな
: どうかお許しを
: アンチでしたが寝返りますので許してください
「でたよマヤちゃん名物のアンチ寝返り」
「これコメントとかSNSの履歴見てみるとガチなアンチの方もそこそこ居るっていうのがまたなんとも言えない点なんですよね」
しかし何とも言えないのはそれだけではなかった。
『マヤ、ダメだよリスナーさん虐めたら。いつ自分が虐められる側になるかわかんないんだしさ♡』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます