第5話

「さて、ここはカフェの端の席。それに、僕が『気配操作』と『遮音壁』を使ってるから、誰もこっちを気にしないし、声も聞こえない。好きなだけ話せるってわけ。じゃあ、聞こうか」


ただのカフェに来たのは人の目を誤魔化すため。怪しくないようにしないとね。人の目が集まるのは良くないから。


「わ、わかった。あんたが只者じゃないのもそうだし、そっちの嬢ちゃんも、怖いしな」


クロはさっきからずっとタリスを睨み付けている。殺気も籠っている。今のタリスには耐えがたいものだろう。


「クロ、そんなに睨んじゃダメだよ。」

「も、申し訳ありません。ただ、この者の態度が気に食わなくて………」


あーあ、怒ってるな。そんなに気に食わないのか。でも、このままじゃ、話が進まない。


「僕は気にしない。クロ、これは命令だ。今すぐにその殺気を抑えろ」


僕が少しクロに殺気を込めてそういうと、怯えたように答えた。


「は、はい。わかりました」


よし、これでいいね。


「さ、話を聞こうか」




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ツミタリスはある貴族の生まれだ。昔は神童とも呼ばれていた。魔力が他の者よりも多く、『スキル』も、攻撃性の高いものだったためである。


しかし、それがきっかけで何度か殺されそうになり、1度誘拐までされていた。


両親はこれ以上タリスが傷つかないように何とかすると言った。


それから、1ヶ月たったある日、タリスは気づいた。自身の魔力が弱まっていることに。


すぐに両親の元へ行き、その事を伝えた。すると、両親は安心したかのような表情をした。


「タリス、大丈夫よ。これはね、必要なことなの。貴方はなにも心配要らないわ」

「そうだぞ。これからは『スキル』のことは忘れて、他のことに励みなさい」


両親はそう言った。言われた通り、学問や剣術、体術に力を入れた。お陰で世間では通用するような力は得たが、代わりに、『スキル』が使えない。


魔力を増やすことが出来なければ仕事にもありつけないとわかり、絶望した。唯一雇ってくれたところにもさっき、クビにされたのだ。



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「なるほどね。タリスの両親はなんで魔力が減ったのか教えてはくれなかったんだ」


だとしたら、両親の意向も考えてあげなきゃね。


「あぁ、ただ大丈夫だ、としか言ってくれなかった。俺は理由を知りたかっただけなのになぁ」


そうか、やっぱりな。理由を教えたらもしかしたらがあると思ったんだろうな。


「その理由、僕なら教えてあげられるよ」

「な、ほっ本当か!!?」


ひと目見ただけでわかったんだ。教えることは簡単だ。でも………


「もちろん。ただし、これは君の両親の意思を無駄にする行為かもしれないよ。それでも、理由を聞く?」


タリスの両親の意思を無視は出来ない。僕にそんな権利はない。だから、彼の意思次第だ。


「…………………俺はずっと、魔力の減少に悩まされてきたんだ。例え親だったとしても、俺の人生に口出しさせねえよ!」



タリスは口調を荒げて、テーブルに身を乗り出した。真っ直ぐ彼の瞳が僕に向けられた。


そうだ。親だからって子の人生にまで口出しは出来ないよな。母さんだって、僕の意思を尊重してくれていたし。


「……わかった。教えてあげる。簡単な話さ。タリスの魔力は、聖力によって封印されているんだ。封印しきれなかったところから漏れ出てる魔力のみで今まで過ごしてきたんだよ」


そう、ただの封印。しかも完全でない。魔力が漏れ出てしまっている。どんな半端者がやったんだよ。やるからには、完璧に封印してあげれば良いのに。


「ふ、封印?どうやって…………」


僕の言葉に面食らったような顔をしたタリス。さっきまであんなに気を張りつめていたのに、急に間抜けな顔になったな。


「んー、1度教会かどこかに行かなかった?」

「あぁ、昔1度だけ、親に連れていかれた。それがどうした?」


僕の質問に不思議そうに彼は答えた。本当になにも知らされてなかったんだな。


「その時に封印されたんだよ。きっと徐々に魔力を封印していくタイプのものだったんだろうね。タリスが気づくのが遅れたのはそのせいだ」


僕がそう言うと、彼は力が抜けたのか、背もたれにもたれかかった。


「なるほどな。だかよ、なんでわざわざゆっくり封印したんだ?一気に封印すればよかったはずだ」

「1つは思っていたよりもタリスの魔力が多かったこと。もう1つは中途半端に封印してもタリスの魔力量ならすぐに破られるから、かな」


僕の言葉に目を丸くして、驚いた様子だった。


「俺、そんなに魔力量多いのか………?」

「そうだね。僕の見立てだと、そこら辺の魔人の2~3倍ってところかな」

「そ、そんなに!!?魔人は竜人より魔力量が多いんだぞ!それなのに2~3倍って!!並の『スキル』でも、力加減次第で都を滅ぼせるぞ!」


彼は信じられないのだろう。早口で捲し立ててきた。


「そうだね。どうする?どっかの都、滅ぼしてみる?」


冗談まじりに茶化してみた。


「ば、バカ言わないでくれ!俺にそんな気はない!!都を滅ぼすなんて、そんな大罪犯す度胸なんてないさ!それに、封印されているんだろ?だったら、そんなこと出来ないだろ」

「封印なら、僕が解けるよ?簡単だからすぐに出来るけど。場所は考えなきゃダメだけどね」


僕が軽く言うと彼は衝撃で放心状態になった。


「そ、そんな簡単に…………俺の今までの苦労は一体なんだったんだ……た、頼む。いや、頼みます!貴方様の力で俺の封印を解いてください!!そしたら、恩を返したい。こんなだが役にたつと思う!!俺を仲間に入れてください!」


態度が一変、彼は僕に向かって勢い良く頭を下げた。綺麗に90°だ。それを聞いて、クロが目を見開いて反論した。


「なっ!カミル様、このような者、仲間にする必要などありませんわ。わたくしだけで十分です!」

「まあ、落ち着いて、クロ。………んー、そうだな、タリスの『スキル』次第かな。それ次第で仲間にするか決めるよ」


僕の返答にクロは心配そうに涙目で訴えてきた。


「か、カミル様ぁ、わたくしはいらないのですか?こんな魔人なんかを仲間にするかもなんて。ダメです!他種族たど信じるに値しませんわ!!」

「これは決定事項。クロにも意見はさせないよ。それに、クロの代わりなんていないよ。いらないなんて考えるわけないだろ?」


きっぱりと告げる。クロは安心したのだろう。ホッと一息ついた。


「ありがとうございます、カミル様。…………タリスとやら、わたくしはクローク・エル・アサナースト。吸血鬼だ。わたくしに気安く接しないことだ」


キッとタリスを睨み付け、高圧的に名乗ったクロ。そんなに気に食わないのか?それとも、僕がクロ以外に仲間を増やしたのが嫌だったのだろうか。


「わ、わかりやした。お嬢」


あーあ、タリスが萎縮しちゃった。てか、『お嬢』って………まあ、クロはこう見えて【真祖】、吸血鬼族の女王様だ。間違ってはない……かな?


「ふん、わかったから良いわ」


クロはツンとそっぽを向いた。まあ、多少認めたのかな?


「うんうん、仲良くなったみたいだな。じゃ、『スキル』について聞かせてくれ」


僕は話を戻し、彼の方へ姿勢を向けた。


「はい、俺の『スキル』は《暗殺者》っす。暗殺系ならなんでも出来ますぜ。魔法も使えました。全属性で各々、上級魔法まで使えやした」

「…………うん、仲間にするよ、使える。タリス、これからよろしくな」


そう言って彼に手を差しのべた。彼の表情が明るくなり、声を震わせながら僕の手を力強く握った。


「はい……はい!!よろしくお願いしやす!若様、お嬢。」


本当はクロ以外の仲間を増やすつもりはなかった。でも、タリスは使える。僕らのこれからに……

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