第2話

「まずは、山を出なきゃね」


僕はなれた足取りで山を降りていく。順調に進んでいると、どこからか悲鳴が聴こえてきた。


「きゃぁぁぁ!!!」

「おらぁ、有り金全部出せや」


お、おぉ、これは本で読んだことがあるぞ。カツアゲってやつだ。本当にやってるヤツがいるなんて………本当に愚かだ。


「なにやってるの?」

「なんだ貴様。この竜人である俺様に何て態度だっ!」

「そうだぞ、薄汚い吸血鬼風情が!!」

「俺たちの役に立てるだけありがたいと思いやがれ!!」


へー………こんなにも世界は腐っているのか。なんだ、旅に出たばかりなのに、もうそんな面が見えてくるなんてな。


「ふーん、たった1人の吸血鬼相手に3人の竜人様がお相手してくださるなんて、さぞ大変でしょう。僕がすぐに終わらせてあげますよ」


僕がニコッと笑いながら言うとリーダーっぽいヤツは怒り狂ったように顔を真っ赤にさせた。


「なにをっ………」

「大丈夫、すぐに、本当に一瞬で終わるから」

「えっ……」


相手なんていないかのように、僕は後ろを振り返り、吸血鬼にそう伝えた。そして、今にも襲いかかりそうな竜人3人に向かってこう呟いた。


『腐食、呪い、風化』

「なに言ってやが………………ぐわぁぁぁああああ!!!」

「「なっ!う、うわぁぁぁあああ!!!」」

「死をもって償え」


3人は腐食し、呪われ、そして、風化していった。まるでもともと竜人なんていなかったかの如く跡形もなく消えてなくなった。


「凄い………あの竜人がこんな簡単に殺られるなんて………」


呆気にとられている吸血鬼。どうしてこんなとこにいるんだろう?


「怪我とかしてない?大丈夫?」

「は、はい。ありがとうございました。人間様」


…………一目で僕が人間族だとわかるわけがない。髪色も銀に染めて吸血鬼に寄せたんだから。


「…………僕は人間族じゃないよ。人間族は遥か昔に滅んだんだから」

「いいえ、わたくしは吸血鬼、近くの者の血の匂いで種族がわかります。貴方様は人間族の方です」


なるほど、吸血鬼族にそんな能力があるなんてな。それじゃあ、目的は………


「………………僕を殺しに来たのか」


殺気をのせてそう聞いた。それが1番妥当だったから。昔、殺し損ねた人間を始末しに来たんだ。たった1人なのは………舐められてるのか?だとしたら本当に愚かでしかないな。


「そんな、違います、違いますわ。わたくしども吸血鬼は他種族とは異なるのです。人間族は神そのもの。数ヵ月前から風にのって血の匂いが流れてきておりました。それが途絶え、何かあったのかと思いましたわ。故に、来たのです。この近くに人間様がいらっしゃるかもしれない。だからこそ、わたくし自らこうして出向いて来たのです」


っ!!母さんが時々手に傷をつけていたのはそういうことだったのか。吸血鬼族にのみに伝わるように、人間はまだ生きていると教えるために………。


それに、この吸血鬼からは悪意が感じられない。もし、殺すつもりなら竜人を相手にしているときに何らかのアクションをとったはず。それに……


「『わたくし自ら』?お前、そんなに偉いの?」


ずっと、気になってた。丁寧すぎる言葉使い、風にのって血の匂いがしたと言ったが、距離がありすぎる。それなのに血の匂いを感知できる能力。並の吸血鬼ではないだろう。


「わたくしは古代より生きている【真祖】でございますわ。過去にあったこともすべて存じております」


全て、知ってる?あの時代にも生きていた?じゃあ、こいつも、人間族を殺したのか……?


僕は無意識に拳に魔力を込めて、質問した。


「お前は、人間族は神だと言った。だが、昔、殺しているんだろ?矛盾じゃないか。そんなヤツの言葉など信用に値しない」


冷めた目で吸血鬼を見ながら、そう伝え、去ろうとした。


「お、お待ちください!違うのです。我らは闘いたくなどなかったのです。奴らに、竜人族に力の源である、【水血晶】さえ奪われなければ………」


水血晶、本で読んだな。確か、流動的でありながら丸く、色は血のようだと。真祖になれば、それを身に付け闘うことすらできると言う。


それが……そんなに大切なものが、奪われた?あり得ない。厳重に保管されているはずの水血晶が他種族に奪われるわけがない。


「信じられないのも無理ありませんわ。あれは、わたくしたちの力の源。奪われてはならないもの。それなのに、竜人によって催眠をかけられた同胞の手によって奪われたのです。気がついたときには手遅れでした………」


催眠か、可能性はあるな。そんな『スキル』を手にしているヤツがいてもおかしくない。多分、1度殺して、再生中に催眠をかけたのだろう。真祖に血が近い吸血鬼ならば再生出来るから。


それに、その催眠をかけられた吸血鬼はきっとこの子の近くにいた者だろう。裏切られたようなもの、か。だが、それだけ懐に入られていて気づかないものか?


「当時、わたくしは自惚れていたのです。真祖はわたくしのみ。そして、封印はわたくしの血と髪が必要。ならば、誰にも開けられるわけがない、と。…………月に1回、わたくしは深い眠りにつくのです。そのときにわたくしの血と髪をとられたようで…………」

「?鍵とかかけなかったの?誰も入れないようにするものでしょ、そういうときは」

「えぇ、その通りです。わたくしはたった1人にのみ鍵を預けておりました。唯一の腹心とも呼べる者に。ですが、その者こそ、裏切り者だったのです。気がつかなかったとは………どんなに悔いても悔いきれないのです」


……なるほど、そんなに大切にしていた人から裏切られたのか。どんなに苦しかったか。想像すら出来ない。


「……辛かったね。僕には想像もできない。産まれる前のことだし、命懸けで助けてくれた人もいたから。………いいよ、信じても」

「あぁ……なんと、なんと慈悲深いのでしょう。我らもあの闘いに参加させられていたというのに……」

「僕は『ギフト』で相手が嘘をついているかわかるからね。君は嘘をついていない」


僕には今はなにも出来ない。それに、この世界のこともなにも知らない。なら、この子を信じて、一緒に旅に出よう。


「僕はカミル、カミル・マリールド。これから旅に出るところさ。君も一緒にどうだい?」

「あぁ、我が神よ。ありがたき幸せにございます。わたくしは、クローク・エル・アサナーストでございます。クロ、とお呼びください」

「わかった。クロ、これからよろしくね」

「えぇ、何なりとお申し付けくださいませ」


こうして、旅に出て早々に、仲間が出来たのだった。1人だと不安もあったし、丁度良かった……かもしれないな。

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