第1話

《人間族》はかつて世界最強の地位にいたの。それは、私たちが神に愛されていたから。その証拠に背中に《聖紋》があるの。でも、それが気に食わなかった他種族たちーー「竜人族」「魔人族」「獣人族」「森人族」「吸血鬼族」「魚人族」ーーによって人間族は一人また一人と殺されていったわ。…………全ては、竜人族が世界を支配しようとしていたために。


種族関係なしに1人1人【魔力】と【聖力】をもっている。人それぞれその大きさは違うが必ず持っている力。


彼らは力を使って『スキル』と呼ばれる能力を行使するわ。魔力を身体に満たせば髪が漆黒に近づき、聖力を身体に満たせば髪が純白に近づく。もちろん、力の大きさによって限度はあるけどね。


私たちは『スキル』ではなく『ギフト』と呼ばれる超人的な力があるわ。それはこの世の理を覆すようなものばかりだったのよ。超人的な力、そして強靭な精神力。それらによって最強の地位を保っていたわ。しかし、それも長くは続かないの。


もし、人間族が世界統治していたならまた違った結果になっていたかもしれない。でも、私たちの願いは家族と幸せに生きていくことのみだったの。私の力は破壊とは真逆のものだから制限をかけてはいなかったわ。でも、世界をも破壊できる力を持っていた人たちはその使用に自ら制限をかけていたそうよ。でも、その制限が仇となった………なってしまった。


魔力も聖力も人間族が最も多く保有していたわ。それでも、数には勝てないの。多種多様な攻撃に制限付きでは対応しきれなかった。多くの仲間を失い、悲しみに暮れ、絶望していたわ。そんなとき、気がついたの。私に命が宿っていることに。


それはかつて「破壊王」と呼ばれた人との子だったわ。人間族が滅ぼされると決まった時、真っ先に狙われ、そして、最前線で闘い、各種族の王たちによって殺された人だったわ。だから、私は逃げたのよ。この山の中に。彼との子を守るために、そして、いつの日か、この子が幸せに暮らせるように、子と共に長い長い眠りにつくことにしたの。



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~1000年後とある山の中~


ここにはとある母子が隠れ住んでいた。母の名は「アストレア・マリールド」。息子の名は「カミル・マリールド」。滅んだはずの《人間族》の最後の生き残りだ。彼らは、他種族に見付からないように辺境の山の中で暮らしている。


「僕が産まれる前にそんなことが……」


僕が10歳になると、母さんは唐突に昔の話をした。話すべきか、話さないべきか。復讐させたくはないが自分は恨んでいる。そんな状況でまともに話せるだろうか。きっと、色んな葛藤があっただろう。声を震わせながら母さんは話を終えた。


「えぇ、これはすべて本当にあったこと。そして、奴らはそれすら忘れてのうのうの生きている。そんなこと、許されていいはずがない……………」

「母さん……」


今でも、父さんのことが忘れられないんだろう。他種族からしたら、1000年以上前の話。でも、母さんにしてみれば、まるで、昨日のことのように思えるのだろう。今にも涙が溢れだしそうなのを必死に我慢して母さんは話してるようだった。


「…でもね、貴方には幸せになってほしい。これも本心なの。だからね、貴方は世界を視て、感じて、知ってほしいの。この世界が在るべきかどうかを。それだけの力をもっているもの」


そう、僕は父さんと母さんの両方の力を受け継いでいる。破壊王と呼ばれた父、聖女と呼ばれた母。つまりは、破壊と再生。この力を使えば世界を作り替えることさえ出来るだろうと言われた。


「この話をしたのは貴方にも知っていてほしかったから。昔のこと、父さんのことーーなにより、世界を見極めてほしかったから。………私は今もこんな世界、滅んでしまえばいいと思っているわ。でも、貴方がどんな道を選ぶか、そっちの方が大事なのよ。だから、全部話したのよ」


そうか、母さんは、世界が滅ぶことを望んでいたのか。それでも、僕が自分の意思で自由に選べるようにこの話をしたんだ。この世界をどうするべきか、僕自身に決めさせるために。でも………


「……………わかった。でも、母さんが生きてる限りは一緒に居させて?少しでも親孝行したいから」


母さんが僕を幸せになってほしいと願うように、僕も母さんには幸せでいてほしい。だから、最期の瞬間まで一緒にいるんだ。


「カミルっ……………………………ありがとう……」


自身の寿命が殆どないことなど承知なのだろう。1000年もの間、力を使い続けたようなものだから。だからこそ、僕を早く自分のもとから去らせたかったのかもしれない。でも、そんなのは嫌だ。僕は、母さんのお陰で、父さんのことも、昔のことも知れた。生きていく上で必要な力の使い方も教わった。そんな僕の唯一、大切な人。だから、最期まで幸せに、笑っていてほしい。何を言われたって絶対に離れない。


それから、僕は母さんに尽くし続けた。どんどん身体が動かなくなっていく母さんをみながら………。ここは山のなかで、風向きが変わることのある場所。風向きが変わったタイミングで、自らの手に傷をつけ、窓に向けて手を伸ばしていた。なぜそんなことをしていたのかは最期までわからなかった。理由を聞いてもはぐらかされるだけだった。でも、母さんのすることに意味のないことはないから。いつか、僕のためになることなのだろう。僕は母さんを信じる。



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~半年後~


母さんが逝ってしまった。徐々に身体が動かなくなっていき、最後はベットから起き上がることすら出来なくなった。そして、息を引き取ったと同時に一瞬にして塵となってしまった。まるで、時間が一気に進んだかのように。僕は涙がとまらなかった。しばらくは、何も手につかない日々が続いた。


そんな時、当然、母さんの声が頭に響いた。


『カミル、幸せになりなさい。それが、それだけが私の、私たちの願いなのだから』

「……………母さんっ」


なんで母さんの声が聴こえたのか、わからない。ただの幻聴かもしれない。でも、今日で泣くのは最後にしよう。もう、前を向かなくちゃ。母さんのためにも、そして、世界のためにも…………ね。


まずは、世界を見に行かなくちゃ。そのためにも準備が大事だよね。家のなかも整頓しなくちゃいけない。今日から大忙しだ。


必要なものを揃えるのに1ヶ月もかかってしまった。近くの村から物資を集めに行ったり、母さんの遺品整理をしたり。そして、今日でこの家ともおさらばだ。長い間、ありがとう。僕たちを守ってくれて。


「行ってきます、母さん。」


そうして僕は旅に出た。

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