第41話 真実とは
翌日。酒瓶を持って『迷宮』へ向かおうと提案すると、カイは眉をひそめて見せた。どうやら昨晩の事は一つも覚えていないらしい。そんなカイを無理やり連れて三階層へと向かい、ネムに昨日と同じことをさせる。
その結果、カイの目の前に隠し部屋へと続く階段が出現したのだった。
「ほ、本当にあった……すごい!すごいよネムさん!」
「ふふふ。もっと褒めても良いよ」
嬉しさで涙を流しながらネムに抱き着くカイ。ネムもカイに褒められて笑みを浮かべて見せる。そんな二人を尻目に、俺は階段の下に見える光に向けて『探知』魔法を発動していた。
昨日は気づかなかったが、やはりこれまでと同様『探知』魔法で探ってみてもあの光の先に何があるか分からない。
「やっぱりダメみたいだな。俺の『探知』魔法でも、階段から先は認識できないみたいだし。俺が先頭歩くから、二人は後に続いて降りてきてくれ」
「そんな、悪いよ!私の願いを叶えるために行くんだから、ユウキが危険を冒す必要ない!」
カイが首を振って俺の提案を断ろうとするが、ここは俺も譲るわけにはいかなかった。あの光の先にどんな罠が仕掛けられているか分からない以上、二人を危険に晒すわけにはいかない。
俺にとってカイとネムは赤の他人でもなければ、カボチャでもない。大事な冒険者仲間なのだから。
「それはそうだけどさ、俺の方が頑丈そうじゃん?それに『探知』魔法使いながら進んで行けば、もしかしたら部屋の内部も認識出来るようになるかもしれないだろ?」
「そ、そうだけど……」
何とか説得しようと試みるも、カイの表情は曇ったままだった。どうやって彼女を納得させようか悩んでいると、ネムが援護射撃をしてくれた。
「大丈夫。ユウキはこの中で一番硬い。ネムが保証する」
「……ネムさんがそう言うなら。頼むよ、ユウキ!」
「おう!任せとけ!」
ネムのお陰でカイもようやく納得してくれた。
俺はネムに感謝しつつ、階段を降りていく。探知魔法を発動しながら降りていくが、やはり光の先からは何の反応もない。どんな空間が広がっているかも分からないため、俺は恐る恐る光の先へと足を踏み出した。
足を踏み入れた先は、今までの迷宮と同じような空間だった。ただ違っているのは、部屋の奥に変な像が居るってこと。酒瓶を持った鬼?のような生物が上下真逆に描かれている。
ただその像から変な反応は無かった。
「とりあえず罠とかは無さそうだな!二人共降りてきて良いぞ!」
罠の反応もなかったため、俺は安心して後ろに声をかける。だが後から返事は無かった。俺が降りてきた階段は消滅しており、壁になっていたのだ。
「ッチ……なるほどねぇ。階段を降りた奴だけ隔離するタイプの罠だったって訳か」
予想外の罠に舌打ちをしつつも、俺は部屋の中を進み始める。この部屋から脱出する方法は分からないが、あの像が関係していないはずないだろう。
俺が像の前まで歩いていくと、象の目がキラリと怪しく光った。
“『生誕の間』に訪れし者よ。我は『宝珠の守護者』。三つの問いに正しく答えた時、汝に宝珠を授けよう”
「クイズって事か?あんまりそういうの得意じゃないんだけどなぁ……」
面倒くさそうにそう呟くも、宝珠の守護者は俺の言葉を無視して問いかけてきた。
“汝、今の己を愛せているか?”
「ん?……まぁ普通かな。自分の好きなように生きれてるし、やりたいことも出来てるからな」
守護者に問われた内容に少し違和感を覚えたが、俺は自分の思うがままに答えることにした。俺の回答を聞いた守護者は続けざまに二つ目の問いを口にする。
“汝、新たな自分へと生まれ変わりたいか?”
「いやぁ二年前に生まれ変わった気分味わってるから、今のところ大丈夫だ」
二つ目の問いも一つ目の問いと同様のものだったため、俺の違和感は確信へと変わった。だからと言って答えを変える気もなく、俺は淡々と問いに答えていく。
“汝、愛する者は女性か男性か?”
「女性だな。でもだからって同性愛者に対して偏見があるわけじゃないぜ?そういう人が居るのも普通のことだろ?」
三つ目の問いに答え終わると、守護者の口がパカッと開いて中から光輝く綺麗な美しい宝珠が現れた。
“汝、正解を導きし者よ。褒美として『真実の宝珠』を授けよう”
「『真実の宝珠』ねぇ……まぁ有り難く頂戴させてもらうとするよ」
俺は守護者に向かって嫌味を言いながら、ヤツの口から宝珠を取る。すると一瞬目の前が暗くなり、気が付くと俺はあの柱の前に戻っていた。
「あ、ユウキだ。やっと終わった?」
「ユウキ、ありがとう!二人のお陰で『転生の宝珠』を手に入れられたよ!」
横からネムとカイの声が聞こえ、二人の姿を確認する。二人の手にも俺と同様に宝珠が握られていたことから、あの部屋に行って戻ってきたことを知った。
カイが嬉しそうに俺に見せてくる宝珠を確認し、俺は苦笑いを浮かべる。その後ネムの宝珠も確認してから、ようやく二人に話しかけた。
「ネムはその『宝珠』を受け取る時、なんて言われて受け取ったんだ?」
「これ?『幸運の宝珠』って言われた。すごそうな名前してる。ユウキは?」
ネムの口から出た宝珠の名前を耳にし、俺は先程の守護者の正体が何だったのか確信した。そしてなぜ、カイに股間を見せたゴモスさんが号泣していたのかも──
「俺は『真実の宝珠』って言われたな。三人とも別々の宝珠を貰ったって訳か」
「そうみたいだ!私だけ宝珠を受け取っちゃ悪いと思ってたから、正直ほっとしてるよ!これで私もようやく本当の男になれるんだ!」
手に持った宝珠をキラキラした瞳で見つめるカイ。俺は少し胸が痛くなりつつも、彼女の手から宝珠を奪いとった。
「あ!なにするのよ、ユウキ!私の宝珠返してよ!」
「あーカイのためを思って言うんだが……この宝珠使わない方が良いと思うぞ?」
「な、なんでよ!折角苦労して手に入れたのに、使わないわけないでしょ!」
俺がカイのために苦言を呈するも、彼女は気にも留めず、俺の手から宝珠を奪い取ろうとする。このままではカイが宝珠を使用してしまう。そうなっては、二度と元のカイには戻れないかもしれない。
「いや、そうなんだけどさ……」
俺は事実を伝えるかどうか少し迷った。これを伝えることで、察しのいいネムなら俺の正体を見抜いてしまうかもしれない。そう思ったからだ。だが今そんなことを考えている余裕は無かった。
カイの人生を守るために、俺は今言わなければならないのだ。
「実はその宝珠、『転生の宝珠』じゃなくて『心変わりの宝珠』みたいなんだよ」
「……はぁ?何言いだすのよ、ユウキ!これは『転生の宝珠』だって、宝珠の守護者が言ってたのよ!」
俺の言葉に怒りを露わにするカイ。その隣でネムが困惑した表情を浮かべている。普段の俺からは想像のつかないような発言をしているから、ネムも驚いているのだろう。
だが俺にはこの宝珠が『心変わりの宝珠』だと言える確信があった。そう──確信出来る理由が、俺にはあったのだ。
「実は俺……『鑑定』が使えるんだ」
異世界から転生した人間が使える、典型的なスキルの一つ『鑑定』。俺がそのスキルを使えると知った時、二人は目を見開いて固まっていた。
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