第39話 ネムの鼻

 ネムのお陰もあって、順調に一階層を攻略した俺達は、階段を降りて二階層にやってきた。階段を降りた先には既に魔物が待機しており、涎を垂らしながら俺達が降りてくるのを見ている。


「グルォォォ!!」

「グルゥゥゥ……」


 犬のような顔でダラダラと涎を垂らす魔物達。そいつらの姿を見て、俺は少し戸惑いネムに問いかけた。


「一階層はゴブリンで二階層はコボルトか!?こいつ等、群れで来ると結構しんどいんだろ!この迷宮って本当に初心者向けなのか!?」


 コボルトは単体で戦えば容易に倒せるが、群れをなすとその脅威度は上がる。今の俺なら百匹で来られようと問題ないが、初心者にとっては命に関わる問題だろう。


 だがネムは四匹のコボルトを前にして、淡々とした様子で答えていく。


「迷宮の魔物は『侵入者』を排除することしか考えないから、群れで行動しない。だからこいつ等も全然怖くない」

「なるほど!それなら普通に倒せばいいか──」


 それなら今度は俺の番だと言わんばかりに、俺はコボルトに向かって手のひらを向ける。ネムも俺が行動すると分かっていたのか、双剣を抜くことなくジッとそこで立っていた。


「──『乱風刃』!」


 カイが忠告する暇などなく、コボルト達の体はバラバラに切り刻まれていく。カイは俺達の後ろから呆然とした様子でそれを眺めていた。


 それから二階層の戦闘は俺が担当し、ハイペースで突き進んでいく。その間も隠し部屋探しのために『探知』魔法を発動していたが、結局何も見つからなかった。


「ユウキ。何か見つかった?」

「いやぁ、ずっと『探知』魔法発動してるけど、特に見つからねぇな。とにかく先に進んでみるしかなさそうだ」

「そか。じゃあドンドン進もう」


 ネムはそう言ってドンドン先に進んでいく。ネムも壁に耳を当てたりして異変を感じ取ろうとしているみたいだが、やはり簡単には見つからない。


 まぁ一周目の調査は現状把握みたいなものだからな。本格的な調査は二周目以降にすればいいだろう。そう思いながらネムの後ろに着いて行こうとした矢先、背後から上ずったカイの声が聞こえてきた。


「な、なあ、ユウキ!休まなくて大丈夫か?一階層からずっと『探知』魔法発動してるなんて、かなりしんどいだろ?コボルト達も魔法で倒していたし、魔力切れになるんじゃないか!?」


 心配した様子のカイの言葉に俺は焦りを覚えた。普通の冒険者達がどの程度で魔力切れになるか理解していなかったため、これまで何も気にせず魔法を発動していた。しかし、恐らくカイの様子から察するに、俺が魔力切れになっていないのは異常なのだろう


 どうやって言い訳しようか考えていると、俺の代わりにネムが答え始めた。


「心配しなくていい。ユウキの魔力は全然余裕あるから」

「いや、なんでお前が答えんだよ!俺的にはもうそろそろ限界なんだが!?」


 ネムの言葉に乗る形で疲労をアピールしようと試みる。しかし、俺が否定の言葉を述べた瞬間、ネムが不思議そうに首をかしげて口を開いた。


「そうなの?……ユウキの匂い、いつもと変わらないから、魔力減ってないと思ってた」

「バ、バッカだな!お前も俺の匂いに慣れすぎたって事だよ!もっと敏感になっていこうぜ!」


 Aランク冒険者の勘か、それとも猫人族の嗅覚が凄いのか、ネムは俺の魔力量を感じ取っていた。そんな彼女の言葉に動揺しながらも、何とかお茶を濁してこの窮地を脱するのであった。


 ◇


 普通の冒険者のように階段で休憩を取り、魔力を回復し終えた俺達は、その流れで三階層へと向かった。階段を降りた先をそのまま真直ぐ進んでいくと、道が左右に分かれている。そこにこれ見よがしに設置された柱が一本置かれていた。


「滅茶苦茶怪しいな、これ!道中にこんな柱あったか!?」

「ユウキもそう思うか?でも、その柱はただの設置物なんだよ。こうやって押したり叩いたりしても何も起きないし……このくぼみに水を注いだこともあるが、何も起きなかったから」


 カイがそう言って、実際に色々ためしていく。しかし柱はうんともすんともせず、何の変化も起きることは無かった。ゲームであれば間違いなく何か起きる装置にしか見えないのだが、ここは異世界だと自らを納得させて俺は先に進もことにした。


「まじかぁ。じゃあとりあえず、左の道から行ってみるか!行き止まりみたいだし、調べ終わったら戻ってこようぜ!」


 そう言って左の道に進んでいく。『探知』魔法で既に分かっていたが、道の先は開けた空間になっており、そこには魔物が待機していた。白い毛並みの魔物が此方に目を向ける。


「グルゥゥゥ……ウォォン!ウォォン!」


 魔物が俺達を認識し、威圧するように吠え始める。だが部屋に足を踏み入れるまでは襲ってこないようで、部屋の中央で吠え続けていた。


 その魔物はホワイトウルフだった。脅威度で言えばコボルトよりもはるかに上なのだが、一匹ずつしか登場しないようで、俺達の敵では無かった。


「ホワイトウルフかー。脅威度Eランクだけど、まぁ1匹なら初心者でもなんとかなるか」

「ん。部屋に入らなきゃ襲ってこないし、コイツに勝てなきゃ次の迷宮には進めないから」


 ネムはそう言って一歩足を踏み出した。その瞬間、此方に向かって突っ込んでくるホワイトウルフ。だがヤツの牙がネムに届くことは無く、一秒と経たずにネムの双剣がホワイトウルフの首を切り落としていた。


 それから四階層、五階層と攻略してしまい、たった一日で『誕生の迷宮』を攻略してしまったのだ。簡単に周回出来そうなのは良かったが、本来の目的である隠し部屋を探すことに関しては、かなり骨が折れそうだと思い知るのだった。


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