第37話 ここの来たのは付けるため
「大変申し訳ございませんでした!!!どうか許してくださいませ!!まさかカイが、女性だとは知らなかったんだ!!」
ルウエンの宿の一室で、俺は床に額をこすりつけながら必死に謝罪の言葉を述べていた。その前で、カイは顔を真っ赤に染めながら首を横に振り始める。
「も、もう謝らなくていいよ!私──俺が鍵を閉めて無かったのがいけなかったんだし!」
カイはそう言って俺の謝罪を受け入れてくれたが、それでは俺の気が済まない。俺はそのまま床に額をこすりつけ再度口を開いて謝りつづけた。
「いや完全に俺が悪い!カイの返事を聞かずにドアを開けたのがいけないんだ!どうか許してくれ!この通りだ!」
正直カイが女性だとは思わなかった。体を隠していたせいもあるが、立ち振る舞いが完全に男性のモノだったからだ。ただ先程の叫び声を聞いて、それが無理して作られていたモノだったと分かった。
冒険者として甘く見られぬようにカイが必死で被っていたベール。それを俺は好奇心を抑えられなかったという理由だけで、破り捨ててしまったのだ。
どう謝っても許される筈が無い。それ程のことをしたというのに、ネムはムスッとした様子でカイのことをじっと見つめていた。そしてシレっとした態度で喋り始めた。
「ユウキは何も気にする必要ない。そもそもコイツが隠してるのが悪い」
「何言ってるんだ、ネム!隠しているのにも理由があるかもしれないだろ!」
ネムのそっけない態度に思わず声を荒げる。人には誰しも他人に言えない隠し事があるものだ。俺だって隠し事の一つや二つ抱えてる。それを無断で踏み荒らしてしまったのだから、相手が謝罪を受け入れてくれるまで頭を下げるべきなんだ。
「いや、その、隠してるつもりは無かったんだよ。ただ俺は……俺は男になりたかっただけなんだ!」
「「……はぁ?」」
カイの言葉に、俺とネムは二人そろって情けない声を上げた。そして互いに目を合わせた後、再度カイの方へ目を向ける。
きっとネムも同じことを思っているだろう。『何言ってるんだコイツは』と。
こんな可愛らしい顔をしておいて、男になりたいだと?もしかして、心が男なのか?いやでも、裸を俺に見られて、女の子らしくキャーって叫んでたし、それとこれとは関係ないのか?
いずれにせよ、言葉の真意を確かめる必要がある。
「えっと……男になりたいってどういう事だ?男装して、男の気分を味わいたかったのか?」
「そ、そうじゃない!俺は心も体も本当の男になりたいんだよ!その為にここに来たんだ!」
俺達にそう訴えてくるカイの表情は、まさに真剣そのものだった。どうやらこの地に来た理由は、『男』になるという願いをかなえるためだったらしい。そりゃ出会って一ケ月の俺には話し辛いだろうし、隠す筈だ。
「な、なるほどなぁ!良かったなぁ、ネム!どうやらお前の勘違いみたいだぞ!カイはここに性転換手術にやってきたらしい!」
「手術……ネムにはわかんないけど、頑張ってね?」
ネムはそう口にしながらも、目をグルグルさせて動揺していた。脳の処理が追い付かず、今にも倒れてしまいそうなネムを見て、カイが慌てて俺の言葉を訂正し始める。
「ち、違うよ!性転換手術なんかじゃない!俺はここで『性転換の宝珠』を手に入れて、男の姿に生まれ変わるんだ!」
カイがそう口にすると、ネムは直ぐに冷静さを取り戻した。そして怪訝そうな表情でカイを見つめた後、俺の手を引いて部屋から出ていこうとしだした。
「そんな宝珠、聞いたこと無い。ユウキ、コイツはやっぱり嘘をついてる。早く家に帰ろう」
「ま、待ってよ!ちゃんと話すから!俺の話を聞いてくれ!」
部屋から出ていこうとする俺達を見て、カイは急いで扉の前に立ちふさがった。唯一の出口をふさがれてしまった俺達。だが元々ここへ来た理由は、カイがルウエンに来た真意を聞くためだったことを思いだし、俺とネムはカイの話に耳を傾けることにした。
「この街は『迷宮』があるって話をしたよな?」
「『誕生の迷宮』だろ?誰もが一番最初に攻略することになる迷宮だって。それが一体どうしたんだ?」
ルウエンに来た時、カイが教えてくれた話を思いだす。その迷宮があるからこのルウエンは砂漠地帯にありながらも、ここまで栄えているのだと。
俺の問いかけに対し、カイは一息ついたあと興奮気味に語り始めた。
「『誕生の迷宮』は五階層で終わりの低階層迷宮だ。でも……実は隠れた場所が存在するらしい!そこを訪れることが出来れば、『性転換の宝珠』が手に入るらしいんだ!」
カイは「凄いだろ!」と言わんばかりの顔を浮かべて見せる。しかし今度は俺の隣で話を聞いていたネムが、眉を吊り上げて反論し始めた。
「あり得ない。あの迷宮は完全に調査しつくされた。地図も全て公表されてる。他の場所なんか存在しない」
「確かにギルドの発表ではそうだったかもしれない!でも俺は会ったんだ!『誕生の迷宮』で宝珠を手に入れて、女になったゴモスさんという人に!」
両者譲らぬといった様子で額をぶつけ合うカイとネム。顔が良い女の子同士が顔くっつけてるの見ると、正直ちょっと興奮するよね。
どうして普通の女の子って単体ではカボチャにしか見えないのに、二人揃うと綺麗な百合の花に見えてくるんだろう。きっと神様がくれた素敵な魔法なんだ。
まぁ俺の趣味趣向は置いておいて──
「とりあえず状況を整理すると、カイは心も体も男になりたいと。そのために『誕生の迷宮』で『性転換の宝珠』を手に入れたい。そこで、俺の力を借りたいって話だな?」
「そ、そうだ!頼む、ユウキ!俺に力を貸してくれ!」
カイはそう言って必死に頭を下げてきた。ここまで必死になるという事は彼女にも事情があるのだろう。だがこの異世界においてそんな事情があるとすれば、最早アレしかないだろう。
テンプレと化したソレに、俺は両手を交差させてカイの願いを断固拒否してやった。
「ことわぁぁぁぁる!!ぜぇぇったいに協力してやるものかぁ!!」
「な、なんでだよ!俺はどうしても男になり──」
カイは俺が拒否するとは思っていなかったのか、焦って動揺しだす。俺はそんな彼女に追い打ちをかけるが如く口を走らせていく。
「お前の理由なんてなぁ、どうせ『実家の道場を継ぐために、男にならなきゃいけないんだ!』とかそんなモンだろ!テンプレみたいなこと言いやがって、ふざけんな馬鹿野郎!そんな理由で男になんかなる必要ねぇってんだ!」
男が継ぐとか時代錯誤も甚だしい。カイの実力を知っている俺からすれば、余程の猛者でも居ない限り、彼女が道場一の実力者なはず。それならカイが、女のままで道場を継げばいい。
俺の必死の訴えに、カイも心が打たれるかと思いきや、カイはちょっと引きつった顔で口を開いた。
「て、テンプレ?何言ってるんだ、ユウキ。俺の実家は道場でも何でもないぞ?俺の家は普通の農家だ」
「……え、あそうなの?じゃあ何で男になんかなりたがるんだ?」
まさかのテンプレから逸脱した状況に今度は俺が混乱してしまう。それ以外の理由なんて全く思いつかない中、カイは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて俺の問いかけに答えた。
「どうしても叶えたい夢がある……そのために、俺は男にならなくちゃいけないんだ」
カイの口から出た言葉がどれほどの思いで告げられたものなのか、流石の俺にも理解できた。カイには俺達と同じように、叶えたい夢があるのだ。同じ夢を持つ者として、協力しないわけにはいかない。
「……分かったよ!そこまで言うなら協力してやる!ネムも良いよな?」
「ん。そういう事なら全然協力する。頑張って探そう」
こうして俺達三人は、カイの夢を叶えるべく『性転換の宝珠』を見つけに『迷宮』へと向かうのであった。
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