第28話 救済と条件
“助けてあげましょうか?”
その声は突然聞こえてきた。その声の主は、俺が良く知る人物。ここにいるはずの無い存在だった。
「神様!!」
天を見上げてそう叫ぶと、空から眩い光を発しながら美しい女性が降りてきた。突如として現れた神に対し、声を上げるものは誰も居ない。よく見ると、俺以外の人間は全員時が止まったかのように動きを静止していた。
神様は俺の目の前で起きている状況を見て、呆れたようにため息をついてみせる。
“はぁ……貴方は神の使徒なのですよ?なぜこんなことになっているのですか”
「すいません神様!もう何というか、俺にはどうしようもなかったんです!」
俺の言い訳を聞いて、神様はまた呆れたようにため息を零す。どうやら俺が今までどんな行動をして来たか完全にバレているようだ。俺は頭を掻きながら申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。
“これまで見守って来ましたが……貴方は魔王を倒す気があるのですか?”
「勿論ですよ!!頑張って強くなったのを、神様もご存知でしょう!?俺は魔王を倒すために、俺なりの計画を立てているんです!!信じてください!!」
神様の眉間に少しシワが寄ったのを見た俺は、慌てて言い訳を始めた。俺がこの二年間で強くなったのは事実。それが魔王を倒すためだと言っても、過言では無い。
実際魔物は倒していたわけだし?計画が上手く行かず、魔王を倒せなかったとしても、魔王を倒す努力はしていたわけじゃない?そこらへんは汲み取って貰いたいよね。
“そうですか……仕方がありません。ここは私が降臨して、貴方のことを話すとしましょう”
「え?いやそれはちょっと勘弁してください!今後の生活に支障が出て、俺の計画が狂ってしまいます!魔王討伐のためにも、なんとか穏便に済ます方法ないですか!?」
良かれと思って降臨しようとする神様を慌てて止める。そんなことされたら俺の魔王討伐計画~奴隷イチャラブ計画~が台無しになってしまう。
俺のお願いを聞いて、神様は少し黙り込んでしまった。まさか俺の計画が計画(偽)だとバレたのか?そう思ったのも束の間、神様はポンと手を叩いて話し始めた。
“では、貴方が行った『記憶の改竄』を修正しましょう。もとはと言えば、彼女に関わる記憶を消したせいで問題が起きたのですから、記憶を元に戻します。そうすれば、貴方の疑いは晴れることでしょう”
「な、なるほど!それが出来るのであれば、よろしくお願いします!あ、ちょっと待っててくださいね!」
俺は神様が記憶を戻す前に、ネムを担いで今いる場所から移動させた。万が一記憶の修正が上手く行ったとしても、ネムの双剣がオルフェさんの首をちょんぱしてしまったら意味ないからな。
こうしてネムを移動し終え、神様の方にOKのサインを送る。しかし何故か一向に行動しない神様。暫く黙り込んでいた後、神様は大きく頷いてから喋り始めた。
“記憶を修正する前に……貴方には一つ条件を呑んでもらいます”
「条件?なんですか?」
“これより半年後、貴方のいるローデスト王国から西の方角にある場所で、魔王に連なる者達が動き出します。それを倒すと約束してください”
「……分かりました!出来る限り頑張るって約束します!」
神様から後出しじゃんけんのように突き付けられた条件。俺は嫌々ながらも笑顔で了承の返事をする。だってここで拒否したら人生バッドエンドですから。
“石黒裕樹さん……私は貴方の行動を強制することは出来ません。貴方の言葉を信じ、約束を守ってくれることを信じて、記憶を戻すことにしましょう”
「ありがとうございます、神様!俺、約束守るために出来る限り努力しますんで!待っててください!」
俺の返事に神様は盛大なため息を付いた後、天に向けて両手をかざした。その手のひらから小さな光の粒子が解き放たれ、空に集まっていく。粒子が大きな球体になり、その球体が破裂した。光が波のように空へ広がっていく。
その様子を確認した神様は最後に俺の顔を見ると、「約束ですからね」と言って消えていった。俺は返事をする事もなくただただ笑みを浮かべて空に向けて手を振った。
神様が消えたことで時が動き始めたのか、俺の背後で「ビュン」と風切り音が聞こえてきた。後ろへ振り向くと、ネムが不思議そうに剣を眺めている。それから徐々に周囲が騒がしくなっていった。
「あれ……お二人共、こんなところで何をしているのですか?今日は事情聴取が長引いて、宿舎に泊まっている筈では?」
あれ程必死にやり合おうとしていたオルフェさんが不思議そうな顔で俺達に話しかけてきた。他の調査団の方々も、自分が何故ここにいるのか不思議に思いつつも、自分の持ち場へと戻っていく。
「そうだった……ユウキ、早く帰って寝よう?」
ネムも構えていた双剣を腰に戻すと、俺の手を引っ張って歩き始めた。どうやら神様の記憶修正は上手く行ったようだ。
こうして俺は安心してネムに引っ張られるがままに道を歩いていくのだった。
◇
翌日。俺とネムは調査団の詰所で最後の事情聴取を受けていた。
「──つまり、ユウキさんはネムさんを助けるために、伯爵の屋敷へ侵入したわけですね!そして彼女を救出した後、一緒に街へ帰還したと!」
オルフェさんの表情は穏やかなものだった。二日前に牢屋の中で見たあの冷酷な彼女は何処にもいない。これも全て神様のお陰だ。
「そうです!彼女が誘拐されたと知った時は、本当に気が気ではありませんでした……でも彼女を助けるためとは言え、伯爵の屋敷へ侵入したのは事実です!本当に申し訳ございませんでした!」
俺はそう口にしながら額を机に擦り付けた。するとオルフェさんが慌てて俺の肩に手を置いてきた。
「顔を上げてくださいユウキさん!仲間を助けるために貴族の屋敷へ侵入するなんて、覚悟のいる決断だった事でしょう……貴方を責める人なんて誰もいません!貴方は勇敢な人間です!そうは思いませんか、ペンツ!」
「はい。法に触れることを知りながらも、仲間を助けようと行動する。そう言った人間がこの国にいることを私は誇らしく思います」
二人はそう言って俺を慰めてくれた。しかいしなんというか、嬉しさよりも人ってここまで変わるんだなという恐怖心の方がデカいのはなぜだろう。
覚えてないかもしれないけど、この二人は昨日俺の事を『大犯罪者』と言って殺そうとしたのだ。それなのに、今は手のらをかえすように誇らしいとか言っちゃってる。
俺が二人に対して恐怖心を抱いているとはつゆ知らず、オルフェさんは最後に調書を確認した後、手元にあった判子を押した。そして誇らしげに胸に手を当て、調書を読み始めた。
「ローデスト王国特務調査官、オルフェ・ギルデロイが判決を言い渡します!ユウキ・イシグロはポルシュツ・デナード伯爵の屋敷へ侵入したが、それはネム・シローニアを助けるためであった!危険を顧みずに友を助けようとするその行動は、誰も咎められるものではない!!よって……ユウキ・イシグロを無罪とする!」
こうして、俺は世紀の大犯罪者から一転し無罪放免となったのであった。
~あとがき~
ここまで読ん下さりありがとうございます。
第2章はこれで終わりとなります。
神のお陰で何とか事なきを得たユウキ。
しかし面倒な条件を突き付けられてしまいます。
ユウキは約束を守り、魔王の手先を倒すのでしょうか
はたまたそんなの気にせず、自分の思うがままに行動するのでしょうか。
引き続きお楽しみください。
次回より、第3章始まります
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