第7話 金策と工作

 同居生活のルールを決め、本格的にネムとの生活がスタートした。


 正直、奴隷以外の女の子と一緒に暮らすのは気が進まない。でもまぁ、意外と言う事は聞いてくれるし、他の我儘なかぼちゃと暮らすくらいなら、ネムの方が幾分かマシだ。


「飯は念のため二日分用意しといたからな!ちゃんと残さず食べるんだぞ!」

「ん、分かった」


 キッチンにある冷蔵庫を指さしながらネムに伝える。昨日メイド服を買うついでに、お礼として買ってあげた魚柄のパジャマに身を包んだネムは、眼をこすりながらコクリと頷いた。


 俺は今日から二日間、金策に走るため街から離れてしまうのだ。


「俺が居ない間もルールは守るように!家の中散らかしたりするんじゃねぇぞ!」

「わかった」


 俺の指示にネムは欠伸をしながらゆっくりと頷いて見せる。ちゃんと話を聞いているか心配になるが、まぁ流石に大丈夫だろう。


「それじゃあ、行ってくるからな!寝てても良いけど、あんまり寝すぎるなよ!」

「ん。いってらっしゃい」


 久々に耳にした『いってらっしゃい』の言葉に、なんだか無性にむずがゆくなる。口にした本人は何の気もなく言ったのだろうが、なんだか家族が出来た気分だ。身長的に手のかかる妹と言ったところだな。


 少し照れ臭くなりながら、扉を閉めてカギをまわす。閉める寸前に隙間から、二階へと登っていくネムの姿が見えた。多分これから二度寝をかますのだろう。


「よっし!サクッと一狩して帰って来るとするか!」


 気合を入れなおし、街の方へと進んでいく。


 今日は冒険者ギルドに行って依頼を受ける予定だ。奴隷オークションで目当ての奴隷を競り落とすにはかなりの金が要る。少しでも早く、多く稼げる依頼を受注しなくてはならないのだ。


 冒険者ギルドに着いた俺は、直ぐに依頼が貼りつけられているボードへと向かい、自分のランクで受注できる依頼を探していく。お目当ての依頼を見つけた俺は、その紙を取って受付へと向かった。


「おお、ユウキじゃねぇか!今日は何の依頼受けるんだ!?」


 依頼書を持って行くと、片目に眼帯をつけた男が声をかけてきた。


「久しぶりだな、フルラ。今日は竜仙花の採取依頼を受けようと思ってな。面倒だけど報酬が良いんだ」


 竜仙花とは、ある特定の場所に咲く花であり、回復薬や解毒薬などの材料にもなる花の事である。数が少ないわけでは無いのだが、咲いている場所が危険性の高い場所のため、高値で取引されるのだ。


 依頼書を受け取ったフルラは、驚いた様子で依頼書を見つめていた。


「げぇ、マジかよ!竜仙花っていやぁボルツ山脈の中腹辺りに生えてる花だろ!?あそこら辺はワイバーンとか居るんだぞ?襲われて怪我でもしたら割に合わねぇ!止めとけって!」


 フルラはそう言って顔の前で手を横に振ってみせる。彼の言う通り、ワイバーンに襲われでもしたら、ソロのBランク冒険者なんか一瞬の内に殺されてしまうだろう。


 だがそれはあくまでもBランク冒険者だ。俺のようなチート持ちには当てはまらない。かと言って、それを大っぴらに言う馬鹿な真似もしない。


「大丈夫だ。隠密は得意だし、逃げ足は速い方だからな。じっくり時間をかけるつもりだよ」

「お前がそう言うなら良いけどよぉ……よし!それじゃあ行ってこい!」


 フルラは少し心配そうにしながらも、受領証の判を押してくれた。俺はフルラにお礼を言って、そのままの足でボルツ山脈へと向かった。


 ◇


 ボルツ山脈にやって来た俺は、採取依頼の竜仙花を早々に取り終え、のワイバーンを狩っていた。


「グルォォォ!!」


 ----------------------

【種族】 ワイバーン


【Lv】 40

【HP】 3300/3300

【魔力】 750/750

【攻撃力】 B+

【防御力】 C+

【敏捷性】 A+

【知力】  D

【運】  D


【スキル】

 竜爪

 噛み付き


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 空を自由に飛び回る薄緑色の竜モドキ。自分の縄張りに足を踏み入れた人間に対し、威圧の雄叫びを上げる。どうやら俺を餌だと勘違いしてしまったらしい。奴の体に傷一つ無いことから、自分よりも強者に出会ったことが無いのだろう。だから戦力差を見誤るのだ。


「ギャーギャー喚くな、鬱陶しい!悪いが一撃で終わらせて貰うぞ!」


 俺はその場で『跳躍ジャンプ』魔法を発動させ、一瞬の内にワイバーンの頭上へと跳びあがった。俺の姿を見失ったワイバーンはキョロキョロと地上を見渡している。俺はその隙に奴の頭に降り立ち、脳天目掛けて剣を突き刺した。


「グロォ……」


 小さく鳴いた直後、両翼がピタリと動きを止めて、ワイバーンは地面へ向かって落下し始めた。俺は自分とワイバーンの死体に『飛翔フライ』魔法を行使し、落下速度を減速させていく。


 周囲に悟られぬよう静かに地面に降り立った後、作業しやすいようにワイバーンの体勢を整え、俺はを始めた。


「よし。まずは右側の翼をこの大剣で切り落としてっと……」


 俺は神から与えられた『異空間収納』から大剣を取り出すと、右側の翼を付け根の部分から一刀両断する。その翼に適当な傷をつけた後、今度は反対側の翼に向けて魔法を放った。


「『風刃ウィンドエッジ』!よし、これで翼の処理は良い感じだな!」


 風魔法『風刃ウィンドエッジ』により切り刻まれた翼を見て、俺は満足げに頷いた。この傷ついた両翼を見れば、ギルドの連中も「地面に落ちて飛べなくなったワイバーン」だと思うだろう。


「あとは尻尾の毒針を切除して……切断部分は燃やしといたほうが良いな。『火炎弾ファイヤーボール』!」


 高値で売れるワイバーンの『毒針』は傷つけないように取り除く。後はそれがバレないように証拠隠滅として、切断面を燃やしてぐちゃぐちゃにすればいいだけ。


「これでBランクの俺でも運良くワイバーンを倒せたって言えるよな!よし、あとはこの死体をマジックバックに突っ込んで、ギルドで提出すれば良いだけだ!」


 ワイバーンの死体を腰に下げた布袋に入れていく。どう見ても死体が入るほどの大きさでは無いのだが、これは『異空間収納』と似たような魔法が施された布袋なのである。時間経過は有るものの、袋の何十倍もの大きさを収納できる魔法道具なのだ。


「よし、依頼も完了したことだし帰るとするか!帰りはレノマ森林通ってホワイトウルフ狩りながら帰るとしよう!あの毛皮意外と高値で売れるんだよなぁ!」


 全ての目的を達成した俺は、ほくほく顔で帰路についたのだった。

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