第8話 世渡り上手
のんびりと二日かけてオルテリアに帰ってきた俺は、冒険者ギルドで依頼達成の報告をしていた。
「まさか本当に竜仙花を採ってきちまうとはな!どうやらお前の隠密能力は相当なもんらしい!ったく、心配して損したぜ!」
カウンターに提出された竜仙花を見て、フルラは嬉しそうにガハハハッと笑みをこぼす。ボルツ山脈は多くの冒険者が命を落とす危険な場所。そこから馴染みの冒険者が無事に帰ってきたのだから、喜ぶのも当然だろう。
俺は少し自慢げに鼻をならし、フルラを小突いてやった。
「だから言っただろ?隠密能力と索敵能力は自信が有るって!まぁその代わり、戦闘はからっきしだけどな!」
「そんな悲観することねぇよ!Bランクに上がれてるだけましってもんだ!Aランク以上の奴等は全員バケモン揃いだからな!気にせずお前のペースで生きてきゃいいさ!」
そう言って俺の肩を叩くフルラ。
冒険者のランクはFから始まり、F・E・D・C・B・A・Sの順で上がっていく。俺はこの世界に来て約二年で、上から三番目のBランクまで昇りつめた。
二年でBランクまで来れるのは相当なモノらしいが、俺はこれ以上、上のランクに行くつもりは無い。勿論実力はAランク以上だという自負はある。ただAランク以上になれば、責任も大きくなるし、面倒事に関わらなければならない。
そんなの嫌に決まってるだろ?
「Aランクの奴らはドラゴンとやり合うんだろ?そんなの人間がやる事じゃねぇよ。それに、貴族の御使いにも行かされるって話だしな。そんな面倒事関わるより、俺は人間らしく慎ましく生きていきたいのさ!」
「ガハハハッ!そうに違いねぇや!背伸びしねぇで身の丈に合った依頼をこなしてってくれや!」
フルラはそう言って笑いながら、カウンターの上に置かれた竜仙花の状態を確認していく。フルラにも言った通り、慎ましく生きていければそれでいい。
俺は奴隷の女の子とイチャイチャラブラブ生活を送る為に金を稼いでいるんだ。いくら金を稼ぎやすくなるからといって、その時間を自ら捨てるような真似はしないのさ。
魔王討伐についても同じ。そんなこと達成してしまえば、地位と名誉を強制的に与えられてしまう。そんなことしたら益々俺の時間は無くなるだろう。
だから魔王討伐なんて、俺の後に転生してくる他の奴らに任せとけばいいのさ。
「よし、竜仙花十本確かに受け取ったぜ!依頼報酬の金貨二十枚だ!ちゃんと確認してくれよ!」
「ありがとう、フルラ。そういえば、もう一個デカい報告があるんだが……実は運よく翼落ちのワイバーンを見つけてな。死体を回収してきたんだが、買い取って貰えるか?」
俺の言葉にフルラはカット目を見開き、両肩にバンと勢い良く手を置いてきた。
「おいユウキ、それ本当か!?本当にワイバーンの死体を回収したってのか!?」
フルラの声に周囲の冒険者達の視線が此方に向けられる。それからあちこちで「ワイバーンの死体だと?」などと声が上がり始めた。
俺は傍に居た冒険者達にスペースを作るようにお願いし、開けた空間を作って貰う。そこへマジックバックから取り出したワイバーンの死体を置いて見せた。
「縄張り争いでもしたのか、俺が見つけた時にはもうボロボロでな。片翼は切断されているし、尻尾の毒針も燃やされてついてなかったんだ。だから隙をついて脳天にコイツを刺してやった!」
そう言って腰に携えた剣に手を添える。フルラも他の冒険者達も、ワイバーンの死体を食い入るように見つめていた。暫くした後、フルラがハッとして口を開き、俺の肩を揺すりだした。
「すげぇぞユウキ!毒針がねぇのはちと残念だが、皮と牙が余ってれば十分だ!コイツは高値で買い取れるぜ!査定しねぇと分からねぇが、少なく見積もっても大金貨一枚分はかたいぜ!」
「本当かよ!?そりゃ助かるぜ!」
買取り価格が大金貨一枚を超えるということに、周囲の冒険者達が騒ぎ始める。単純に羨ましがる奴や、飯を奢れとたかってくる奴らも居るが、一方で俺を蔑むような目で見る冒険者達も居た。
「運良く死ぬ寸前のワイバーンにあっただけだろ?実力もねぇくせに調子に乗りやがって」
「まぁそう言うなよ。所詮Aランクには上がれねぇ雑魚なんだから」
皆に聞こえるような声で罵倒してきたのは、俺と同じBランク冒険者の面々だ。彼等もAランクに上がれずくすぶっている存在だからこそ、こうした成果を上げる俺が気に食わないのだろう。
こう言った時、普通なら無視するか挑発に乗ってやり合うのだろうが、俺は違う。ここでそんな事をしてもデメリットしかない。俺はあくまでも、運良く金を稼げた実力の無い冒険者なんだ。
「皆の言う通り、今回は本当に運が良かった!おすそわけじゃないが、今日はこれで飯でも食ってくれ!」
そう言って懐から金貨十枚を取出して、カウンターの上に置く。
ギルドでは冒険者の食事も提供しているのだが、その支払い分を金貨十枚分までは俺が持つと表明したのだ。
その瞬間歓声が沸き上がる。俺に難癖付けていた奴らも少し悔しそうにしながら、テーブルに戻って早速飯を注文し始めていた。
「すまねぇな、ユウキ。ああいう奴等を大人しくさせるのも俺達の役目なんだが……」
「良いんだ、フルラ。それに、運が良かったのは本当だしな!その分、査定は色つけといてくれよ?」
「おう!任せとけって!明日には報酬渡せるだろうから、ちゃんと取り来いよ!」
フルラはそう言ってワイバーンの死体をマジックバックに収納し、ギルドの奥へと走っていった。俺は騒がしくなったギルドを後にして、道を歩き始める。
お金を貯めなければならないというのに何をやっているんだと思うかもしれない。しかし、こういうガス抜きが一番大事なのだ。揉め事もなく、嫌がらせの対象にもならない。目立たず金を貯めていくためにはこれが一番なのである。
金貨十枚は確かに痛手だが、ワイバーンの買取報酬を考えれば十分の一の損失でしかない。利益は確実に手に入っているから問題はないってわけだ。
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