第3話 目標金額1億円
クオークへの祈りも通じたのか、部屋に現れた二匹のオーク達はぶつくさ文句を言いながらも自分達の巣へと戻っていった。ようやく平和が訪れたことに俺は安堵の涙を流す。自分の貞操を守ることが出来て本当に良かった。
だが一連の態度により、クオークには俺の素がバレてしまったらしく、彼は呆れたような態度でため息をはいていた。
「失礼ですがお客様。奴隷を購入なさるのは初めてですね?」
「はい……でも、奴隷を幸せにする気持ちなら誰にも負けてません!酷い仕打ちを受けた可愛い女の子奴隷を買って、幸せにしてあげるのが昔からの夢だったんです!!それでその子に初めてを捧げて貰って、幸せな家庭を築きたいんです!!」
俺はクオークに嘘をつき通すことを諦め、自分の欲望をさらけ出した。きっとこの紳士なら、親身になって俺の夢の為に手を尽くしてくれるかもしれない。
そう思っていたのだが、俺の発言を耳にしたクオークは、小馬鹿にするように嘲笑って見せた。
「残念ですが、お客様。貴方の夢は叶うことは無いでしょう」
「ど、どうしてですか!!俺にだって可愛い女の子奴隷を救う権利はある筈でしょう!イチャイチャラブラブする権利が無いとでも言うんですか!」
「はぁ……どうやら貴方は奴隷そのものに対する知識が少ないようですね」
俺の必死の訴えもクオークには全く効果が無いようだった。それどころか、少し機嫌が悪くなったようにも見えてしまう。
眉間にシワを寄せたクオークは、部屋の中にあった戸棚の中から一冊のファイルを取出して、俺の目の前に置いた。そのファイルには『奴隷購入規約』と書かれている。
クオークと目が合うと、彼は俺にこの本を読むよう顎で指示してきた。俺は仕方なくファイルを手に取り、一ページ目から流し読みを始めた。
「確かに、十数年前までは貴方の言う通り、様々な事情により自分の体を売る女性も多くおられました。それはローデスト王国が他国と戦争を行い、被害に遭った方々が沢山居たからです」
『奴隷の歴史』という章を俺が読み始めたことを確認したクオークが急に語り始めた。ページに書かれた内容を補足するかのように、クオークが淡々と語っていく。
「ですが現在は戦争も終わり、被害を受けた方には国が補償を行ってきました。そのお陰で今では余程の事情がない限り、自分の体を売るような奴隷は居ないのですよ」
「なん……だと……」
衝撃の事実を知り、俺は思わず固まってしまう。クオークの言う体を売るような奴隷というのは、俺が言う性奴隷の事だろう。それが居ないという事は、俺の夢は絶対に叶わないということになる。
呆然と固まる俺を見て、クオークは表情を変えることなくそのまま話を続けていく。
「現在の奴隷は基本的に家事奴隷と知識奴隷の二種類しか存在していません。まぁ極稀ですが、アンヌのような突出した才で主人を楽しませる奴隷も居ますがね」
語り終わると、クオークは俺を馬鹿にするかのようにフッと笑ってみせた。
『アンヌのような奴隷ですら極稀な存在だというのに、お前の求めている性奴隷なんて、居るはずが無いだろう』。
実際にはそんな事言われてはいないのに、彼の口からそう聞こえてくるようで、俺は思わず耳を塞いだ。何年と夢にまで見てきた奴隷との生活が、水の泡となって消えていく。
クオークはそんな俺の心情などどうでも良いかというように、規約書を手に取って元の場所へ戻してしまった。
「貴方の求めている『性奴隷』は、余程の事情があり高額で買い取って貰わなければならず、仕方なく担当可能とする奴隷場合を除けば、先程のような歳を召した女性か、余程の奇特な方しかいないということです。残念ですが諦めてください」
クオークはそう言って扉を開けると、俺に帰るよう手の平を部屋の外へと向けた。俺は最後の悪あがきと言わんばかりに、クオークの足へとしがみつき、涙ながらに訴えを起こす。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!じゃあ俺はどうしたら奴隷とイチャイチャ出来るんですか!その夢を叶える為だけに、白金貨一枚も貯金したんですよ!!なんとかならないんですか!」
「今の奴隷は人権が保障されていますし、そこまでしなくても十分な生活が保障されるのですよ。奴隷には衣服や食事も与えねばなりません。主人となるものの責任ですからね。性交渉がしたいのなら、娼館に行かれてはいかがですか?」
「それはちがうんだよぉぉ!!可愛い女の子奴隷と、愛し合ってするのが良いんだろうが!アンタそれでも奴隷商のオーナーかよ!見そこなったぞこの野郎!」
商館中に響き渡る俺の声に、廊下の奥から従業員たちがわらわらとやって来た。クオークは面倒くさそうにそれをあしらい、足にくっ付いていた俺を振りはらおうとする。
しかし、チート能力を授かった俺がそんじゃそこらの力で振りほどけるはずもなく、クオークはそれから数十分もの間俺を剥がそうと格闘していた。
そして結局剥がれなかった俺に根負けし、クオークは仕方なさそうに話し始めたのである。
「はぁ、はぁ、はぁ……仕方ありませんね!どうしてもと言うのであれば、年に数回行われる『奴隷オークション』に参加するしかないでしょう!そこに参加すれば、貴方の望む『性交渉が可能な、事情ありの女性奴隷』に会えるかもしれませんよ?」
「ほ、本当ですか!?いつ!それはいつどこで開催されるんですか!俺をそこに連れていってください!!」
俺はクオークの足から手を離し、必死に土下座をして懇願する。クオークは先程の格闘によって乱れたスーツを直しながら詳細を話し始めた。
「開催場所は王都です。ただし、会場に入るためには優良会員と認められた証書と、入場料白金貨一枚が必要になります。そこからオークションで競り落とすにはざっと見積もって白金貨十枚以上が必要になるでしょうね」
「そ、そんな……」
やっと希望の光が見えたというのに、白金貨十枚という途方もない額を聞き、再び目の前が真っ白になってしまう。これでは、オークションに参加して奴隷を競り落とすのに何年かかるか分からない。
絶望の淵に立たされた俺に、クオークは追い打ちをかけるように話を続けた。
「あと、失礼ですがお客様は家を所有なされておりますか?」
「い、家?いや、宿暮らしなんで家はもってないですけど……それがなにか?」
俺の返答を聞いたクオークは、ニヤリと笑みを浮かべて見せる。その含みのある笑みから、俺にとって良くない何かを伝えようとしていることだけは分かった。
「ふっ……奴隷には個室、もしくは奴隷達の相部屋を与えなくてはなりません。ですので、最低でも2LDKの家を所有しなくては、『一般奴隷』ですら購入できないんですよ」
「ば、ばかな!!それじゃあ俺が『運命の奴隷ちゃん』と出会うなんて……」
三度絶望の淵に立たされた俺は、真っ白になってただただ天を仰いだ。
神よ。なぜ貴方はこんな世界に俺を転生させたのだ。
「お客様、お出口はあちらでございます。またのご来店をお待ちしておりますよ」
微動だにしない俺に、クオークが嫌味のようなセリフを吐き捨てる。きっと彼は、俺がここに来る事などもう二度と無いと思っているのだろう。そんなクオークの嫌味になにも返すことも出来ず、俺は灰になりそうな体を必死に動かして、商館を後にしたのだった。
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