RE:仁志君【3部作1】

崔 梨遙(再)

1話完結:1800字

 皆様は、仁志君をおぼえていらっしゃるだろうか? 僕の学生時代の知人で、女っ気が無い。学校を卒業後、“童貞を捨てたい”と言われ、僕は風俗店に彼を連れて行ったことがある。喫茶店で待っていたら、すごくスッキリした顔で戻って来た。


 また、海外旅行が好きで、ドイツと中国では危機一髪のピンチも味わっている。そして琵琶湖、“彼女がほしい”という彼の要望を聞き入れ、2回、琵琶湖で女性陣を口説いたこともある。しかし、“付き合ってもええよ”と言われた瞬間に、彼はキス魔となり、女の子に怯えられて“もう、お会い出来ません、怖いです”と言われたのだ。


 そんな仁志君が、また、やって来た。季節は冬だった。その頃、仁志君は名古屋に転勤していたので、“だったら名古屋でナンパした方が、後々ええんとちゃうか?”ということになり、僕は名古屋に行った。



 繁華街。なかなか声をかけない仁志君を見ていると焦れったくなって、僕も声をかけるようにした。2人組を狙っていたが、1人でもいいことにした。僕が身を引けば、それで良いのだから。


 昼に初めて、あれは、3時か3時半、おやつ時に1人の女の子に目をつけた。ビジュアルも、ファッションも、なにもかも“普通”! だが、笑顔が魅力的だった。その娘(こ)は人の良さが顔に滲み出るタイプのようで、一目で善人とわかる。



 僕から声をかけた。


「なあなあ、今、急いでないやろ? 歩き方がゆっくりやし」

「いえ、行く所は……あるんですけど」

「急いでへんやろ? そこでちょっと頼みがあるねん」

「なんでしょう?」

「僕の隣に立ってる仁志君、彼女いない歴=年齢やねん。ほんで、今日は仁志君に素敵な彼女を作りに来たんや」

「そうなんですか」

「そこで、君や! アメジストのネックレスがよく似合ってる君や!」

「え! 私? アメジストって、よくわかりましたね?」

「いきなり付き合うのは無理やろうけど、とりあえずお茶だけ付き合ってや。その間に仁志君がアピールするから。ほんで、仁志君を見定めてくれたらええやろ? 断る時は思いっきり断ってくれてもええし」

「はあ……」

「おやつの時間や、甘い物でも食べながら暖まろうや」

「じゃあ、30分だけなら」

「よし、決まった! で、ここら辺で喫茶店ある? 僕等は関西人やから、名古屋の店を知らんねん」

「あっちにありますけど」

「ほな、そこ行こう」

「ちょっと高いですよ」

「そんなこと気にせえへんわ。行こ、行こ」



「なんか、男だけでは入られへんようなカワイイ店やな」

「大丈夫ですか?」

「君がいてくれるから、ええよ。仁志君と2人やったらスグに出るけど」

「それなら、良かったです」

「あ、そうや、名前教えてや。下の名前だけでもええから」

「凉花です。涼しいに花です」

「僕は崔梨遙。うーん、崔君って呼んでや。ほんで、こっちが仁志君」

「仁志です」

「とりあえず、何か注文しようや。遠慮せんと頼んでや」

「私、紅茶」

「よし、紅茶とフルーツパフェやな」

「パフェ、高いですよ」

「チョコパフェの方が良かった?」

「いえ、じゃあ、バナナパフェで」

「僕等は甘い物苦手やけど、僕はチョコパフェとコーヒー」

「ほな、俺、コーヒー」

「フルーツパフェ、頼まんかいー!」

「あ、ほな、コーヒーとフルーツパフェ」


「で、ここからは仁志君と凉花ちゃんのトークタイム、仁志君のアピールタイムやでー! 頑張れ、仁志」


 そこから、欠伸が出そうなくらいに退屈なトークが始まった。残念ながら、仁志君のトークでは盛り上がらない。僕は途中、トイレに立った。トイレから出ると凉花が待っていた。笑顔でメモを渡してきた。反射的に受け取った。凉花は席に戻った。メモには凉花の連絡先が書いてあった。僕は、そのメモを大切に財布の中に収めた。


 要するに、この時点で仁志君は惨敗していたのだ。


 仁志君は、一生懸命喋ろうとしていたけれど時間終了。


「私、もう行かないと!」


 凉花が立ち上がった。


「仁志君、連絡先を聞かなくてもええんか?」

「連絡先を教えてください」

「ごめんなさーい!」

「はい、残念-!」



 凉花を駅まで見送って、僕は仁志君に言った。


「どうする? もうやめるか?」

「いや、ようやく手応えを感じ始めたんや、これからもナンパするで!」

「早く、1人でナンパできるようになってくれ。ほな、僕は帰るから」



 家に着くと、僕は凉花に電話した。凉花が選んだのは僕だったのだ。仕方が無い。でも、ちょっとだけ仁志君に罪悪感を感じた。







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