君がいない
――神様が味方してくれた。
そういった言葉があるように、沖縄の空にはダイヤモンドのように輝く太陽が広がっていた。その明るさは、離島の海のように眩しい。ただ、北海道の天気には雪だるまマークが付いている。それが僕の心を少し曇らせる。だけど、僕は視線を上に上げることで、そんなことは小さなホコリのように意識から消え去っていった。
『那覇空港』
家族旅行の際に何度もこの空港を利用しているので、搭乗手続きは迷うことなく行い、飛行機に搭乗できた。僕にとってはある意味大きな冒険になるのだけれども、淡々と時が流れていくことに、どこかそっけなくも感じる。飛行機の中では彼女とのメッセージを通じ、今どこにいるかの状況報告や、飛行機の中から撮った写真を送った。彼女からは『楽しみ!』『待ってまーす!』と言っている動物のスタンプが送られた。
5、6時間のフライトで、体はかなりなまってしまったけれど、いつの間にか目的地に着いていた。時間の感覚は不思議だ。狂っているのではないかとも感じてしまう。
彼女とは彼女の家で会うことになっているので、防寒対策をしっかりしてからバスを乗り継ぎ、そこへ向かう。ただ、その道中、何度「懐かしい」と思っただろうか。まずは北海道の雪だ。空港を出るとすぐに僕の視線に入ったのは、雪景色だった。周りを見るとすべて白という一色の世界にいると言っても過言ではないだろう。今は強くはないが、雪が僕の体を久しぶりに冷やす。そして、豪雪地帯を象徴しているかのような家の二重窓や、縦型信号機。他には北海道といえばの牛の姿を見たときも動揺の感慨がよぎった。
数年ぶりに来たはずなのに、僕の記憶は鮮明に残っているので彼女の家には迷うことなく辿り着いた。家の前の表札も確認したが、間違いない。そもそもの話、このあたりは住居がかなり低いので、間違えることの方がむしろ難しい。
はぁ――。
息を吐くと当たり前のように真っ白な息が出る。その息はどこかに消える。このインターフォンを押し、この家に入れば、会いたかった彼女がいる。なんだか緊張する。それが高まる。何度も手をこすってしまうのは、寒さだけが原因ではないのだろう。
――ピンポーン。
鈍い音が僕以外誰もいないこの広大な大地に響き渡る。僕が一瞬目をつぶった瞬間、ドアが開く。ドアを開けてくれたのは彼女――ではなく彼女のお母さんだ。
「えっ! 久しぶり! 来てくれたの!?」
この様子だと、彼女は今日、僕が来ることを伝えていなかったのだろうか。想定外のことに少し戸惑いながらも、お母さんに対して、お久しぶりですと言ったあと、軽く会釈した。
「あ、今日誰かが来たらこれを渡して欲しいって言われたんだけど、こういうことだったのかな……?」
次に、お母さんは折りたたまれた紙を僕に渡してきた。僕はありがとうございますと小さな声で言ってから、その紙をゆっくりと開いた。置き手紙だろうか。
『私はここにはいないよ。君なら分かるんじゃないかな?』
その紙にはこのようなことが書いてあった。この文字は彼女の文字に間違いない。彼女独特の止め、はらい方で書かれているから。
ただ、ここにはいない? 君なら分かる? その言葉たちに思わず頭の上にクエスチョンマークを浮かべてしまう。一体、どういう意味なのか。
「……ん? どうかしたの?」
そんな僕の様子を不審に思ったのか、お母さんが僕の顔を覗き込むようにしてそう聞いてくる。僕は無言でお母さんにその紙を見せた。
「……? ……? どういうことだろう……?」
お母さんもちんぷんかんぷんだということを表すかのように頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。
「あの、外に出ていったときどんな表情でしたか?」
「んー、どうだったかな。複雑な感情が混じってた……? そんなように思えたかも……」
「わかりました、ありがとうございます。探してみます」
僕はお母さんに会釈すると、彼女が行きそうな場所へ足を進めた。ただ、彼女はどういう気持ちでこの手紙を書いたのかが気になる。そして、どこに身を隠して、どうしてこうしたのかも。雪が君の心を動かしているのだろうか。
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