第5話 食事にします? お風呂にします?

「お待たせいたしました! ちょっとお焦げの香りがついちゃいましたけど、美味しく出来上がりましたよ!」


 コト。

 トクトクトクトク。麦茶を注ぐ音。


「夕食まで……ご一緒させていただいて、よろしかったのでしょうか? あ、でも~『いつも一緒にいたい』なんて言っていただいたので、お言葉に甘えちゃいますねっ♪ ご主人様のご希望、私……ちゃんと叶えられるよう頑張ります!」


 カチャ。スプーンがお皿に当たる音。


「どうぞ、召し上がってください♪」


 モグモグ。咀嚼音。


「ど、どうですか? ドキドキ。……えっ? 本当ですか? 『美味しい』、わぁ~良かったぁ~。すごく美味しそうな顔っ。ご主人様のその笑顔、私、大好きです! 本当に嬉しいです(涙) こんなに美味しそうに食べていただけるなんて、毎日ご飯を作って差し上げたくなりますね。うふふ」


 モグモグ。咀嚼音。


「『毎日作ってよ』? そ、それって……、ご主人様、それって……。そ、そ、そういう大切な言葉は、彼女さんに言わないと。えっ? そんなぁ~(モジモジ)。私なんて……、そんなに若くないですし、ちょっとは可愛いんじゃないって、言われることもありますがぁ~、お胸もそこそこの大きさですし……ご主人様に喜んでいただけるには……えっ? そういうことじゃない?」


 トクトクトクトク、トクトクトクトク。

 麦茶が注がれ、テーブルの上に溢れる。


「きゃっ。ご、ご、ごめんなさいっ。あ、溢れちゃいました!」


 ガタガタ、モゾモゾ。布が擦れる音。


「大変です! ご主人様のズボンもビチョビチョに」


 ゴソゴソ。タオルで慌てて拭き取る音。


「も、申し訳ございませんっ。『もう大丈夫』って……本当に申し訳ございません。私……。ドキドキして……しまって。えっ? 『それより食べさせっこしよう』? そんなぁ~この状況で、えっ、えっ? 『あぁ~ん』って、そんな……ちょ、ちょっと待って」


「はふっ」


 モグモグ。咀嚼音。


「お、美味しい♪ モグモグ。……あぁ~ん、私も! 私もご主人様にして差し上げたいです! い、いきます。はい、あぁぁぁぁ~ん」


 モグモグ。咀嚼音。


「うふ。美味しいですか? きゃっ、嬉しいです。もう一口。はい、あぁぁぁぁ~ん」


 モグモグ。咀嚼音。


「きゃっ。照れちゃいますぅ~(モジモジ)。ご主人様、おかわりはいかがですか? えっ? 『それよりお風呂に入りたい』? えぇぇぇぇぇぇぇぇ、そんな(汗)、いきなりそんな、こ、心の準備が……。ご主人様のご要望でも、一緒に……一緒にお風呂は、そ、その……。あぁ~ん、恥ずかしいですぅ~」


 チリ~ン。


「えっ? 『一緒になんて言ってない』ですって? えぇぇぇぇぇ、きゃっ。ご、ごめんなさいっ。私ったらまた先走ってしまって……、そうですよね。お風呂まで一緒は、ダメですよね。ちょっと残念……かな。えっ? 『一緒にお風呂も入る?』なんて、あぁぁぁぁん。絶対ダメです。冗談ですから。もぉ~やだぁ~」


 バチぃ~ん。彼女に背中を叩かれる音。


「はっ、も、申し訳ございません。大丈夫ですか? あ、こちらがタオルとお着替えです! 行ってらっしゃいませ」


 ガラガラ。扉を開き、湯船に浸かる音。

 ザバーーーン。チャポン。


 少しの間。


 コンコン。扉を叩く音が聞こえる。


「ご主人様? お湯加減はいかがですか? あのぉ~、お、お背中を流させて頂ければと……」


 ガラガラガラ。扉が開く音。

 チャポン。


「あ、ご心配なく! ご主人様のプライベートは尊重いたします! なのでこうして目隠しをして参りましたっ」


 ガタンっ。バスチェアーに蹴躓く音。


「だ、大丈夫です。こ、ここですね。どうぞご主人様こちらへ……。クンクン。えっと、これがボディソープだから~こうしてぇ~」


 ゴシゴシ。泡立てる音。


「さぁ、遠慮なく! ここにお座りください。うふふ。『洗いっこしたい』だなんて、もぉ~それは……私のゴシゴシで、今日は我慢してくださいませ♪ 沢山の泡で洗いましょうね。泡あわです♪ 私、泡立てるの上手なんです」


 ザバーン。お風呂からあがる音。


「で、でわ……失礼して。ご主人様、お背中をこの泡で……」


 ゴシゴシ。


「うふ。ご主人様のお背中、思っていたより広いですね。こうしてゆっくりと……まずは肩から腰にかけて……ゆっくりと円を描くように」


 くるくるゴシゴシ。


「次は左腕を頂きますね。ゴシゴシ。うふ。優しく、優しく。~♪ シャワーで……っと。あ、あれ? シャワーはどこに? えっと……あ、ありがとうございます」


 シャーーーー。シャワーの音。


「きゃっ、冷たいっ。きゃーーーーっ。ど、どうしましょう、とめられませーーん。ご主人様ぁ~。も、申し訳ございません。助けてぇ~」


 ピタッ。シャワーが止まる音。


「はぁはぁ……あ、ありがとうございます、ご主人様。私もビチョビチョに……。『目隠しをとれば良いじゃん』って、そ、そうですよね。で、でも。あ、ご主人様?」


 ガラガラガラ。扉が開く音。


「えっ? ご主人様? あ……っ」


 ゴシゴシ。タオルで髪をごしごしする音。


「あっ……、もう大丈夫ですので……。私よりご主人様の体を……。私がご主人様に、こうして拭いていただいてしまうなんて……、私、私……」


 しばらくの間。


「そんな風に見つめられると……、私……」


 少しの間。


「私……くっ……くしょんっ!」


 少しの間。


「あ……、申し訳ございませんっ。ご、ご主人様のお顔にぃぃ~、私ったらなんてことを。だ、大丈夫ですか? 本当に申し訳ございませんっ。えぇぇぇぇぇぇぇぇ! 『お風呂に入っちゃえば?』ですか? いえいえいえいえ、そんなことできません。『風邪引くよ』って……くしゅんっ。あ……」


 少しの間。


「えっと……『お風呂掃除してくれよ』ですか? はっ、それでしたら。そ、そうですね。しょ、承知いたしました! お掃除ならお任せください! あ、で、でも……。覗いたりしないでくださいね。あ、ご主人様を信じてないとかじゃなくて……そのぉ~、ご主人様にお見せできるような……(少しの間)勝負下着じゃないんですっ。はっ、私ったらまた変なことを……申し訳ございませんっ。で、でわ行って参ります!」


 バタンッ。脱衣所の扉が閉められた。


 シャーーーーっ。遠くでシャワーの音。

 プシューッ。炭酸のペットボトルが開く音。


 チリ~ン。風鈴の音とシャワーの音が心地よく聞こえた。

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