第4話 二人だけで過ごす部屋で望むことはただ一つ!
ゴソゴソ。
冷蔵庫に荷物を入れる音。
「よいしょっ。これでよしっと……」
パタン。
冷蔵庫がゆっくりと閉まる。
「ご主人様、とりあえず保存食品、冷凍食品はしまったので完璧です!」
ゴソゴソ。
再度冷蔵庫が開き、荷物の入れ換えが行われる。
「えっ? ちょ、ちょっと、ご主人様? 入れ方がお気に召しませんでしたか? 申し訳ございません。私がやりますので、座っていてください。えぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 『ここは野菜室で冷凍庫ではない』ですって? きゃーっっ、う、嘘ぉ~! も、も、申し訳ございません。今やり直しますので」
ゴソゴソ。
慌ててやり直す彼女。
「ふぅ~。もう完璧です! 私、学習する生き物なんで、もう間違えませんっ。えっへん。『嘘臭いな』なんて……ひどい(涙)。信じてください!」
少しの間。
「そ、それでは……早速夜ご飯の準備を始めましょう♪ まずは形から。はい! エプロンを着けてくださいね。う~ん、女性用だからちょっとキツイですか? 大丈夫です。ちょっと失礼しますね。右腕を通して……左腕を~。そうですそうです。では後ろを向いてください。紐を腰で結びますね。あっ、もぉ~、もぞもぞ動いちゃダメです。『くすぐったい』? 変なこと考えちゃダメですよ」
きゅっ。
紐が擦れる音。
「はい! これでよしっと。完璧です! うん、とってもお似合いです! よしっと、まずは……えっとぉ~。お鍋、お鍋は~と。あ、これですね。うん、これでいきましょう! ~♪」
トントントントン。
野菜を切る音。
「わぁ~、ご主人様お上手です! うふふ。一緒にキッチンに立っていると、何だか恋人同士みたいですね。私も彼氏さんができたら、こうして一緒にお料理をしたいなぁ~」
少しの間。
「はっ、私ったら……余計なことを。えっ? 『彼氏いないのか?』ですか? え、えぇ……。そうなんです。絶賛募集中なんです(照)。『こんなにかわいいのに』って、もぉ~、ご主人様は嘘もお上手ですね。でも……そう言っていただけるだけで……とっても嬉しいです」
シャーシャー。
玉ねぎなど炒める音。料理をする音が聞こえる。
「う~ん、良い香りもしてきましたね。後は煮詰めていくだけなので、ご主人様はあちらでゆっくりしていてください。『そばにいてくれ』って、もぉ~ご主人様ったら、甘え上手ですね。うふふ、今いきますね」
コトコトコト。
カレーの煮込む音が聞こえる。
彼女が近くに座る音、そして洗濯物を傍で畳む音も聞こえる。
「ご主人様? 私の顔に何か着いていますか? そんなに見つめられると……ちょっと恥ずかしいかな。えへ」
チリ~ン。風鈴が鳴る。
「『覚えてる?』ですか? あ、スーパーでお話しされていたことですよね。も、もちろんです。こ、恋、恋人ごっこをしたいなぁって……おっしゃってくださいましたよね。きゃっ」
クチャクチャっと、洗濯物がよじれる音。
「はっ、申し訳ございません。せっかくシワを伸ばして干したのに……。えっ? 『そんなことより』、で、ですよね」
少しの間。
向かい合って座る二人。
「恋人、恋人……ブツブツ……でも、いやんっ、恥ずかしい……でもぉご主人様のご希望を……叶えて差し上げるのも、私の使命……」
少しの間。
「あのぉ~、考えてみたのですが……、もう少し、ほんの少し、近くに座ってもいいですか?」
ゴソゴソ。彼女が近づく音。
「ご主人様? 手を……お借りしますね」
ゆっくりと手をとり指を絡めていく。
「そう、これです! 恋人同士がすること、やってみましょう。これ恋人つなぎっていうらしいです。ぎゅって指をこうして絡めて……うふ。何だかちょっと恥ずかしいですね。えっ? 『もっとそばに』ですか? えっと、そ、そうですよね。では……もうちょっとだけ」
ゴソゴソ。彼女がさらに近づく音。
チリ~ン。
「もっと? えっと……、はい」
ゴソゴソ。
「すごい近いですけど、だ、大丈夫ですか? そ、それでは失礼します……」
服が擦れる音。
「ご主人様の手……、大きくて冷たくて……。あはっ。緊張してます? わ、私もです。変ですよね」
服が擦れる音。モミモミ。
「ど、どうですか? 強すぎます? 優しく、ゆっくりとすると……気持ちよくないですか?」
少しの間。
「うふ。ご主人様、お疲れのようでしたので、手のひらのこのツボを、こうして……モミモミっと。指先、少し温かくなってきました。このツボ、疲労回復、眼精疲労に効果あるのですよ」
チリ~ン。風鈴の音。
「えっ? わ、私は大丈夫です。おかまいなく。……あっ……。『試してみたいんだ』と申されましても、こ、困ります。はぅ……」
服が擦れる音。モミモミ。
「ふぅ……んっ。ご主人様の指が、つ、ツボに。あぁ~ん。き、気持ちが……良すぎます……はふ」
服が擦れる音。モミモミ。
彼女が耳元で囁く。
「あん……ご主人様……」
コトコトコト、カタカタカタカタ、シューシュー。
鍋がふきこぼれる音。
「はっ、カレー!」
タタタタタッ。走り出す音。
「キャーっ。カレーが(涙)。焦げてます! ご主人様ぁ~」
チリ~ン。
焦げた匂いと、儚い風鈴の音が聞こえた。
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