第3話 僕のお願いは「恋人ごっこ」!
ポーン。スーパーの自動ドアが開き、音楽や人の賑わう音が聞こえる。
「うふふ。二人で買い出しなんて、仲の良い夫婦みたいですね♪ 今夜は何が食べたいですか? ~♪」
カラカラカラカラ。カートを転がす音。
「ご主人様は、何がお好みですか? あ、お肉が安売りしていますよ。お肉とお魚でしたら~、どちらがお好みですか? あ、待ってください。当ててみますね」
少しの間。
「断然お肉ですよね!? うんうん、そうですともそうですとも。私にはご主人様のこと何でもわかっちゃうんです。それじゃぁ~今夜は」
少しの間。
「う~ん。カレーにしましょう♪ 今ご主人様もそう思っていましたよね? ふふ。それじゃぁ~、あれも買わなくちゃ! ちょっと探してきますね」
タタタタタッ。
走り去る足音。
しばらくすると、遠くから彼女の声が聞こえる。
「ありました! ご主人様ぁ~、こっちです、こっちこっち!」
カラカラカラカラ。
急いで向かうカートの音。
「これです! カレーにトマト缶! これがとっても合うんですよ♪ えっ? 『ご主人様って大声で恥ずかしい』? で、でもでもぉ~、ご主人様はご主人様ですから……。でわぁ~、ダーリン♪ の方がいいですかぁ?」
カラカラカラカラ。
動くカートの音。
「あぁ~ん、ちょっと待ってくださぁ~い! ご主人様ぁ~」
タタタタタッ。慌てて近付く足音。
「真っ赤な顔して、どうされました? あれ? 私って、やっぱりすごいなって、改めて感心しちゃいました? うふふ。気付かれました? こう見えて私、すごいんです(笑)。今夜は美味しいカレーを作りますね。忘れられないディナータイムにしましょう♪ ね、ご主人様♪」
カラカラカラカラ。
「後は何か作り置き出きるものを用意しましょうか。何かお好きな食べ物とか……。はっ、ちょっと待ってください。私には見えます! またまた当てちゃいますよ! えっ? 『自分が作れるものを言ってるだけじゃないか』ですって? そ、そんなこと、な、な、ないです。絶対にそんなことないですから、信じてください。何でもお好きなものをお作りします!」
カラカラカラカラ。
「うん? 『それより作り方を教えて』ですか? 私でよろしいのでしょうか? もちろんです。喜んで♪ それでは! 一緒に作りましょう♪ あ、でもこれは会社には内緒ですよ。ナ・イ・ショ」
カラカラカラカラ。
「『なぜ?』ですか? う~ん。それはですね、ご主人様にゆっくりして頂くことが、私たちの使命なので、家事をお手伝いいただいちゃうのはダメなのです。こうして一緒にお買い物まで来ていただいてしまって、バレたら私、怒られちゃいます。って……いえいえいえいえ、私はご主人様と一緒にいられてとっても嬉しいのです。あ、そ、そうですよね? ご主人様の望みを叶えるのも、私の使命でした! 何なりと遠慮なく、お望みをおっしゃってくださいね♪」
トン。胸を叩く音。
カラカラカラカラ。
「うん? 今何と? えっ、ごめんなさい。聞こえなくて、も、もう一度おっしゃっていただけますか? えっ? えっ? そんなぁ~、『もういい』なんて言わないでくださいよぉ~。ほらぁ~、もう一度、大きな声で、せぇ~の! あぁ~ん、ご主人様ぁ~」
カラカラカラカラ。
「お願いですから~、ねっ、ねっ」
カラカラカラカラ。
ピタリとカートの音が止まる。
「……。えっ? こいびと……ごっこ?」
カラカラカラカラ。
さっきより早いスピードでカートが押される音。
「あぁ~ん、待ってくださぁ~い。い、嫌とかそんなんじゃないんです」
ピタリとカートの音が止まる。
「あの、そのぉ~。びっくりしちゃっただけなのです。い、嫌とかじゃなくて心の準備が……。こ、こういうことは順序というものが、あるとかないとか(ゴニョゴニョ)」
カラカラカラカラ。
さっきより早いスピードでカートが押される音。
「ま、待ってくださぁ~い、ご主人様ぁ~~!」
ピタリとカートの音が止まる。
「はぁはぁ、や、やっと追い付きました。はぁはぁ」
少しの間。
「えっと、それでは……その……」
彼女が袖を掴み耳元でささやく声が聞こえた。
「あ・と・で……ねっ♪ きゃっ」
タタタタタッ。
走り去る音。
どうやら、お願いを叶えてくれそうな気配を残し、二人の買い出しは無事終る。
「さ、ご主人様! 帰りましょう♪」
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