第2話 ちょっとズレてるお姉さん

 ガラガラガラ。パンパン!

 窓を開け、ベランダで洗濯物を干す彼女をしばらく眺める。


「ご主人様、どうされました? もうすぐ終わりますから、待っていてくださいね」


 パンパン。

 シワを伸ばしながらあっという間に干し終わる。


「よし! 終わりました。うん? そんなに見つめられると恥ずかしいじゃないですか(照)。」


 彼女は照れながら微笑む。


「そうだ、私こんなものを持ってきたんです。気に入っていただけるかな? って思って」


 そう言うと、鞄の中から箱を取り出す。

 カサカサゴソゴソ。


 チリ~ン。


「どうですか? 私、この音色大好きなんです。今日出会えた記念にお部屋に飾りますね。い、いいですよね? 良かったぁ~。そう言って頂けると思っていました! それでは、よいしょっと、……あれ?」


 彼女がマゴマゴしている間も、ソレはチリンチリン涼しい音を奏でていた。


「あれ? 絡まっちゃった……。ちょっと待ってくださいね。あぁ~んもぉ……」


 マゴマゴしている彼女を、仕方がないから後ろから手伝う。


 ゴソゴソ、チリ~ン。


「あ……、ご主人様。あ、ありがとうございます。さすがお上手です! えっ? 私が不器用すぎるですって? こ、これはですね、ご主人様の優しさを。あぁ~ん、ごめんなさい。ごめんなさいっ。キャンセルしないで~~」


 コホン。一つ咳をする。


「き、気を取り直して、さぁこちらにお座りください」


 ポンポン。

 ベットに腰かけた彼女が隣をポンポン叩く。


「目を閉じて。そして……耳を済ましてみてください」


 チリ~ン。


 チリ~ン。

 優しい風鈴の音色が聞こえてくる。


 チリ~ン。リンリン。

 

 子どもの頃ばあちゃんが団扇を扇いでくれている。そんなイメージが頭に浮かんできた。


 しばらくの間。

 涼しい風鈴の音色。



 ジュージュー。カチャカチャ。コト。

 いい香りが漂ってくる。


「……起きて。ご主人様、起きてください」 


 目を開けると、いつの間にか部屋の掃除も終わり、目の前にいい香りのやきそばが置かれていた。


「うふ、大分お疲れだったみたいですね。ブランチになっちゃいましたけど、冷蔵庫のありもので作ってみました。さぁ、召し上がれ」


 トクトクトク、トクトクトク。

 二人分のコップに麦茶が注がれる。


「はい、どうぞ。えっ? 『私は食べないのか?』って? 大丈夫です。私たちは後で頂く決まりなので、気にしないでください」


 焼きそばの香りが食欲をそそる。

 ズルズル、むしゃむしゃ。

 咀嚼音。


「どうですか? 美味しいですか? わーい、嬉ぃ♪ 美味しそうに食べていただけると、私、本当に嬉しいです! えへ」


 グーー……ギュルル。


「あ……」


 真っ赤な顔をしてうつむく彼女。


「ご、ごめんなさい。あまりにもご主人様が美味しそうで……。えっ? 『日本語の使い方が間違ってる』? いえいえいえいえ、ダメです。『君も食べろ』と言われましても、規則ですから……」


 グーー……。


「あ……(照)」


 スーーーっ。お皿が動く音。

 少しの間。


「えっとぉ~。あの……よろしいのでしょうか? そ、それでは! い、いただきます!」


 シュルシュル。モグモグ。

 麺をすする咀嚼音。


「おいしぃ~。(モグモグ) 一緒に食べるって、なんだか嬉しいですね♪」


 モグモグ。


「はっ、私としたことが。ご、ごめんなさい。あまりにも嬉しくて、ご主人様のお箸を……。これは!? か、か、か、間接キッ……ゴニョゴニョ」


 ガタンっ。ごそごそ。

 席を立ち、新しい箸を持ってくる。


「ど、どうぞこちらをお使いください!」


 ススーー。

 お皿が移動する音。


「えっ? これをお使いになるのです? 私が使ったものですよ? この新しいお箸をお使いください! えっ?」


 少しの間。


「ご主人様……。『洗い物を増やす必要はない』と……。なんて、お優しいのですか?」


 ズズ……。鼻をすする音。


「でも! ダメですよ。私がバイ菌持っていたらどうするおつもりですか? 優しくしちゃダメです。本当に……くすん。ありがとうございます」


 少しの間。


「はい。こちらをどうぞ♪ あ、バイ菌はないですよ! ものの例えです(汗)。そんな疑いの目で見ないでくださいっ。あぁ~ん、キャンセルしないでくださーーーーーーーーい」


 こうして、怒涛の午前が過ぎたのだった。


 チリーン。

 風鈴の音が聞こえた。

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