有効期限は24時間!部屋に突然現れたお姉さんがマジヤバい!

桔梗 浬

第1話 24時間家事代行ってなんだ!?

 コツコツ……。

 アパートの階段を上る足音。


 ピンポーン、ピンポーン。


「おはようございま~す。開けてくださぁ~い」


 ピンポーン、ピポピポピポーーーン。


「受け取り拒否はできませんよぉ~! そんなこと出来ないんですよぉ~。開けないと、訴えますよぉ~。こらぁ~! いるのはわかってるのですよーっ」


 ドンドドドン。


「開けて……」


 ガチャ。ギギギギー。

 鍵が開く音が聞こえた後、躊躇するかのようにゆっくりとドアが開いた。


「あっ、良かった♪ もう開けてくれないのかと思っちゃっいましたよ。よいしょっと。お邪魔しまーす」


 場違いな明るい声が聞こえたかと思うと、ごそごそと重い荷物を抱えた彼女が部屋に入ってきた。


 パタン。

 カチャ。後ろ手に鍵を閉める音。


「ふぅ~、間に合いました! 時間厳守ですからね。えっ? お前は誰だ?」


 ドスンと荷物をテーブルの上に置くと、彼女は意外だと言わんばかりにパンパンと二度、手に付いた汚れを払った。


「う~ん。誰だ!? って言われますと……、そうですねぇ~、難しい質問ですね。宅配業者ではないことは、わかりますよね? う~ん、強いて言えば~夢を叶える恋人かっこ期間限定かっことじ! ですかね♪」


 ガタンっ。

 驚きのあまり、椅子に蹴躓いてしまう。


「だ、大丈夫ですか? そんなに驚かなくても。あなただけの理想の恋人ですよ! どうですか? ちょっと嬉しくないですか? あぁ……でも正確に言うとですね……、申し遅れました! 私、24時間家事手伝い何でも代行『愛会愛トリプルアイ』から参りました家政婦3号です! この度はご予約頂き、ありがとうございます!」



 カチカチっ。ブオン。

 慌ててパソコンを操作して、心当たりのサイトを開く。耳元で彼女の声。


「ふむふむ。疑っていますね? 若くてピチピチで、まぁまぁ可愛いし、こいつに家事なんて出きるのかよって思ってます? ご心配なく! こう見えて料理は得意なんです。肉じゃが、カレー、ハンバーグ! 何でもできますよ。腕前は~そこそこですけど。うふっ。それでは今日一日、よ・ろ・し・くお願いいたします♪」


 ゴソゴソ。

 荷物からエプロンを取り出し、身につける彼女。


「さて、何から始めましょう?」



 パチンっ。

 少し考えた後、彼女はパチンと手を叩いた。


「そうですね、まずは名前をなんとお呼びすれば言いか決めたいですね。えっと……、ご主人様? それともぉ、ダーリン? あなた? きゃっ、なんだか新婚夫婦みたいで照れますね。それかぁ、お坊っちゃまとか? えっ? 何でもいいのですか?」


 少しの沈黙。


「わかりました! でわ、こちらで♪ ご主人様♥️」


 そう言うと彼女は鼻歌交じりに部屋の周りをぐるっと見渡した。



「さて……と。まずはそこの山、お洗濯をしちゃいましょうか。それからご飯のご用意をしますね。えっ? 洗濯はいいですって? いやぁ~家事の代表と言えばお洗濯ですよぉ。遠慮なさらずに」


 ゴソゴソと衣服をかき集める音が聞こえる。

 ランドリースペースから、元気な声が聞こえた。


「あ、今着ているお寝巻きも洗いますね。脱いでくださーい」


 トントントン。彼女が近づいてくる。


「ほらぁ~、一度に洗った方がいいですよ。さ、脱いで♪ えっ? これはいいのですか? うーん、でもここに、ケチャップがついていますよ?」


 彼女の指が胸元をさす。


「ご主人様は一人でお寝巻き……脱げないのかな? ……う~ん、仕方ないですねぇ。じゃぁ~お手伝いいたしますね♪」


 ゴソゴソ。ギシギシ……。


「う~ん、よいしょっ。はい、良くできました。それじゃぁ~、下も脱いじゃいましょう。あ、そんなに逃げたら脱げないですよ、ほら、じっとしててください! ……はっ……、ご、ごめんなさいっ。こ、これはお洗濯です! お洗濯のためですよ、もちろん(汗)、ご主人様を襲ってる、のではなく……(モゴモゴ)。あ、あっちを向いているんで、脱いだら渡してくださいね」


 彼女はモジモジしながら後ろを向いた。


 パサッ。ゴソゴソ。

 仕方なく彼女に脱いだモノを渡す。


「あ、ありがとうございます! う~ん。ほんわかしていて温かい♪ ご主人様の温もりっていうのかな? うふ。でわ、お寝巻き上下、確かに承りました。さぁ、お洗濯始めますよ♪」


 お洗濯~♪ お洗濯~♪

 彼女の上機嫌な声が聞こえる。


 こうして嵐のような一日が……始まった。

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