答え合わせ

第22話



 あの夜から、心の中に充満した不安を取り除くことは出来なかった。



 どうしたらいいのかも分からず、部屋の中で二人きりになる度、私はかすみさんに体を重ねることを求めた。



 例え隣の部屋にツグミが居ても関係なかった。むしろそうと分かっている時ほどそうした。



 かすみさんはその気じゃない時もあったけど、私は強引にでも抱いた。私を裏切ったかすみさんはそれに応える義務があると思った。



 かすみさんも私と同じように思っているのか、私の求めることにまるでみそぎのように何も拒まないかすみさんが憎かった。


 

 私の手や舌に感じるかすみさんの苦しそうな顔を見ると、胸が引きちぎれそうなほど愛しくて、その顔をじっと見つめながらするのが好きだった。



 かすみさんは「恥ずかしいからそんなに見ないで」と言ったけど、そう言われると私はその逆のことをした。



 そうしてあげると、制止してきたはずのかすみさんは私の与える快感にもっと息を荒げてくれた。そして何かに我慢できなくなったように私に両手を伸ばして、もっと欲しがった。



 今にも意識を失いそうな虚ろな目で誘うその時の表情かおが、私は一番好きだった。



 だけど、この顔はきっとツグミも見ていた顔なんだと、どんなに夢中になっていてもふとよぎってしまう。



 いや、ツグミにはもっといやらしい顔と声で求めたのかもしれない…

 きっとそうに決まっている。


 

 そんな風に嫉妬で体が焼かれそうな時は、耐えられず目をつぶって視界の情報を遮断した。そして、かすみさんの繰り返す「雨ちゃん…雨ちゃん…」というまやかしの声だけを耳に入れて、すがりつくようにその虚構きょこうに浸った。



 短絡的な私は、それでも鎖のように体で繫がることが出来れば、いつかかすみさんが自分のことを本当に好きになってくれると信じる気持ちをまだ捨てられなかった。



 だけど、飲みたいくらいに愛しい体を抱いても抱いても、埋まらない距離を感じるだけでただただ苦しいだけだった。



 苦しみを隠し切れず、セックスの最中にかすみさんの胸に顔を埋めて涙を流すこともあった。



 そんな時、かすみさんは悲しい顔をしながら私を強く抱きしめてくれたけど、私を慰めるかすみさんも自分の罪に泣いていた。








 仲のいい両親が三ヶ月に一度の旅行へ出掛ける日、私はかすみさんを、泊まりで遊びに来るように誘った。



 三ヶ月前はツグミに呼ばれて来たけど、今回は妹の私に呼ばれてかすみさんはやって来た。



 いつもよりもっと長く二人でいられることが嬉しかった。





 沢山のキスをして、

 沢山体に触れた。





 夜を待たずに求めて、

 夜になってもそれを続けた。





 何度触れても足りなくて、

 何度も何度も欲しがった。





 全てが邪魔に感じ、

 全てを剥ぎ取って絡まり合った。





 装飾の何もないかすみさんは、 

 本当に美しかった。






 その姿を私だけのものにしたいと言うと、かすみさんはそうして欲しいと言った。







 その日、ツグミは家を空けていた。

 友達の家に泊まりに行くと言って、かすみさんが来る前に出て行った。



 私がかすみさんを誘うことを予想して、敢えてそうしたのかもしれないと思った。




「今日は二人だけだね」





「二人だけじゃ嫌ですか?」





「そんなつもりじゃなくて……」





「ごめんなさい。……最近つっかってばっかりですよね、私……」





「……私、ツグちゃんのことはもう忘れたから……」





「嘘。かすみさんはツグミを忘れてない」





 私は刺すような目でかすみさんを見つめた。





「…………」





「でもいいんです。かすみさんはもう私の物だから」






「雨ちゃん……」






「ツグミには渡さない」






 私はかすみさんが痛みにうめき、白い肌が赤くなるほど抱きしめた。






 この赤が、一生消えないあざになればいいと願って……









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