第18話 レベリング検証

 日本に居た頃に似たような人間を大量に見て来た応供としては早めに対処しておきたい問題でもあった。

 加えて、適度に距離を取る事で自身に依存する事を防ぐ。 確かに応供は強い力を持っており、全力で守れば朱里は命の危険はほぼない生活を送れるだろう。

 

 だが、依存は堕落の始まりだ。 

 日本であるならまだ許容できるがこちらでは場合によっては生死に直結するので彼女は強くならなければならない。 少なくとも応供がいなくても自力で生き抜ける程度にはなって貰わないと困る。

 

 その一歩として彼はこの山脈に足を踏み入れたのだ。 

 目的はステータスシステムの検証。 ミュリエルの話だと生き物を殺す、または摂取すると経験値が入るのでまずはそれを改めて試す。 応供の今のレベルは10。


 アポストルという神の操り人形を葬った事で得た経験値によってレベルが上がった。

 この世界のレベル基準はそこまで複雑なものではない。

 いくつか壁――要は判断基準となるラインが存在するようだ。


 1~5が一般人。 6~10が鍛えられた一般人から騎士などの下級の戦闘職となる。

 11~20はスキル構成にもよるが一般的には強者と呼ばれる領域のようだ。

 一般人が到達できる限界がこの辺りだ。 


 21~30になると多大な武勲を上げた将軍や貴族や王族といった高い身分の者と認識される。

 理由は単純でこの領域は相当数の生物を殺傷しないと辿り着けない領域だからだ。

 普通のやり方ではまず不可能。 達成したいのであれば数多くの戦場に身を置くか、奴隷などを大量に購入して殺害する事が必須となる。 つまり資金力のある貴族や豪商がこれに該当するのだ。


 そして30以上は大貴族か王族のみとなる。 

 レベルアップに必要な経験値は高ければ高いほどに多く要求されるのだ。

 つまり上がれば上がるほどに大量の経験値が必要になる。 要は人間を殺しているだけでは上がらなくなるのだ。 


 そうなるともっと経験値効率のいい生き物を殺す必要がある。 それは何か?  


 ――異世界から召喚した転移者だ。


 どうも異世界人はとんでもなく経験値効率が良く、レベル1でも30以上のレベリングに通用するほどの量を保有しているらしい。

 50を超えているミュリエルがどれだけ転移者を殺しているのかがよく分かる。

 

 さて、ここで疑問なのだが、経験値とは――


 「おっと、出てきましたか」


 山脈を進んでいるとワイバーンの縄張りに入ったようだ。

 羽ばたく音と空から無数の何かが迫って来る気配。 野生の獣特有の本能に突き動かされているような殺気は応供にとって心地よかった。 彼等は喰らう為に応供を殺しに来るのだから。


 ――返り討ちに遭ったとしても文句はないだろう。


 先頭のワイバーンの体が紅く輝き、爆発するように炎が周囲に撒き散らされる。

 羽を焼かれたワイバーンの群れは羽虫か何かのように炭化しながら次々と落下。 

 仲間が殺されたのにかかわらずワイバーンの群れは応供に喰らいつかんと肉薄する。


 「火を恐れませんか。 なら、これならどうですか?」


 応供の前方、何もない場所から雷が発生し、ブレス攻撃を行おうと口を大きく開けていた個体を全て撃ち抜く。 文字通り雷速の一撃はワイバーンの体内を焼き、その機能を停止させる。

 雷撃を喰らって即死したワイバーンの末路を見届ける前に応供は真上に跳躍。


 僅かに遅れて背後からワイバーンが応供の居た場所を通り過ぎる。

 正面は囮、本命は死角からの一撃だったようだ。 飛び上がった事で捉えやすくなったのか、ワイバーンは食らいつかんと追いかけてくるが、先頭のワイバーンの頭部を蹴り飛ばす。


 頬の辺りに当たった応供の足はワイバーンの頭部を破裂させ、内容物を周囲に撒き散らした。

 応供は何かを試すかのように次々とワイバーンを多種多様な攻撃手段で殺害する。

 手を小さく持ち上げて下ろすと鉄槌に叩き潰されたかのように墜落し、反撃とばかりに無数のブレス攻撃――魔力を収束させた光線に近いそれはワイバーンの冷気を孕んだ魔力により攻撃範囲の全てを凍結させるはずだったのだが、全てが応供に届く前に謎の障壁に阻まれる。


 ――思ったよりも脆い。


 最初に通る時は朱里やミュリエルの安全を優先したので無視したが、こうして対峙してみるとそこまでの強さではなかった。 日本で遭遇した魔導書という悪魔を召喚するツールを使った者達の呼び出した上位の悪魔と比べると数段見劣りする。 


 結論で言うのなら熊や野犬よりは遥かに強いが所詮は野生動物というのが応供の感想だった。

 そんな事よりも目を向ける事があったので、彼の意識は自身の内面へと向かう。

 レベルアップだ。 ワイバーンは大した事はないが経験値的には中々だったようで思ったよりも早く上がった。


 彼が確かめたかったのはレベルが上がった時の感覚だ。

 確かに自己が強化されるのを感じる。 この力の出所は何処なのだろうか?

 少なくとも己の内側ではない。 再度、レベルが上がる。


 応供はワイバーンを焼き殺しながら深く己の内を見つめ、この力の出所を見極めんと集中。

 ミュリエルは言った。 ステータスは己を包む鎧のようなものだと。

 その認識は正しい。 数値で決まるのであれば筋肉が意味をなさない。 つまりはステータスは本人由来の力ではないのだ。


 実際、応供の体にもそのステータスによって生み出された鎧のような何かを感じる。

 雷撃でワイバーンを感電させて始末する。 レベルが上がった。

 力が流れ込んで来る。 どんな力にも必ず出所があるのだ。

 

 レベルが上がる事により流れ込んで来る力を見極めろ。 

 念動力でワイバーンを雑巾のように絞る。 レベルが上がった。

 

 ――あぁ、段々と分かって来た。


 この力は世界から送られてきている。 

 ワイバーンの噛みつきを横薙ぎの蹴りで頭部ごと叩き潰す。 レベルが上がった。

 知覚範囲を広げる。 見えてきた。


 自分だけではなく、ワイバーンにも世界から力が流れ込ん行くのが見える。

 見える、見える、見えてくる。 どんどん見える。

 手刀でワイバーンの首を切断。 レベルが上がった。


 もっと知覚を広げろ。 経験値の、ステータスの正体を見極めるんだ。

 自身に流れる力の流れを辿れば源泉が見えてくる。

 肉体ではなく、魂の知覚で世界を視るのだ。 俺はそのやり方を知っている。


 思い出すのは応供が敬愛してやまない星と運命の女神の事だ。

 彼女と出会ったあの場所は間違いなく魂の座す在処。 それに近い場所。

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