第99話 養殖

 パワーレベリング、口の悪い人は養殖っていう。

 実際、強い人たちに寄生してるだけってのが普通のパワーレベリングだし、言われてもしょうがないと思うけど…。


 これは違うよな。


 幸い、あれ以降他の探索者にあってないけど、もし居たら、コイツら…いやコイツは躊躇いなく襲うだろう。


「すいません、一回休憩して良いですか?」

「だらしねぇな、これくらいでもう疲れたのか?」


「はい、すいません」


 なんとか休憩を貰って。

 みんなで集まる。


「あのさ…」

 俺がみんなに喋ろうとした時に恵ちゃんがそっとスマホを見せてくる。


『盗聴されてるかもしれん。はなさん方がええ」


 俺は静かにコクンと頷いた。


 その画面を全員が確認してから、ずっと沈黙したままの休憩が終わる。


 結局この日は10階のエリアボスを倒して終了した。

 ボス戦は参加させて貰えたので経験値が入る。


 流石にAAランクだけあってかなりの経験値だ。

 それでも探索者も時と比べると、体感十分の一くらいに感じる。


「次はニ日後な、ペース上げてさっさとクリアするからな」

 それだけ伝えると、白銀は帰っていった。


 俺たちはこのままウサギ小屋でミーティングをする事にした。


 ーウサギ小屋ー


「俺、間違ってたっす…。

 なんでも良いから強くなりたいって思ってたっすけど…あれはダメっす」

 たかしが真っ先に今回の事を否定した。


 ちょっと意外だった。

 コイツなら単純に強くなった事喜ぶかと思ってたのに。


「たかしは強くなれたって喜ぶと思ってた」


「強くなりたかったっすけど、俺らは芋掘りダンジョンで探索者同士でダンジョンの中で協力しあってるっす…。

 なんか、あの犠牲者みてたら芋掘りの仲間の姿被ったっす」


 そうか、アイツの理論でいくなら芋掘りの連中とか完全に経験値貯金箱だもんな。


 強くなりたかったら仲間を襲えっていう話になりかねない。


「でも、向こうはこれからも人を襲い続けるわ、私たちが拒否したら距離は永遠に埋まらない」

 俺が思ってる事を朱里ちゃんが言ってくれた。


「そうなんだよ、胸くそ悪くても、アイツらの事が許せなくても、着いていかないとドンドン引き離されていくだけになってしまう」

 単純にレベル差は力の差だ。

 大きく引き離されれば、優秀なスキルだの、多数の味方だの関係なくなる。


 純粋な力量差で圧倒されてしまう。


「ちょっと良いかしら?」

 お姉さんが俺たちの話し合いが煮詰まったタイミングで声をかけてくれた。


「あ、はい大丈夫です」


「君に言われて色々調べてみたんだけど、喪心傀儡ってスキルは今までで協会で確認されているのは一人だけね」


「あ、一人でも居るんですね」


「うーん、それがクラスでは無く、個人に発現したユニークスキルっぽいのよね、これ。

 ちなみに二年前にダンジョン内で行方不明になっているわ」


「二年前」


「白銀が今のパーティで活動しだした頃ね。

 あと、もう一つ気になる事があって、白銀が勇者として世の中に認知される直前に日本の最初の勇者が亡くなってるわ。

 死因は急性心不全」


「勇者死んでるんですか?」


「ええ、今までは白銀は勇者と似たようなスキルを持っていると思っていたけど、殺した相手のスキルを奪えるって考えた方が腑に落ちるわ」


「え、でも心不全って病気で無くなったんじゃないんですか?」


「あのね、心不全って心臓が止まったって事なの。

 それが病気でも、事故でも、殺人でも心臓が止まれば心不全って言えるのよ。

 それは真実じゃ無いかもしれないけど、嘘は言ってないってなるのよ。

 それなりに権力がある人間が動けば、どんな状況でも心不全の死因にできるわよ」


「え、じゃあ急性心不全ってもしかしたら白銀が殺しただけかもしれないんですか?」

「そうね、それなりに権力のある人が介入すれば、そうなるでしょうね」

 何それ、こっわ!

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