第84話 新しいウサギ 1
「すいません!ウサギ小屋に行きたいんですけど」
ランクアップが終わったら、そのまま又あの隔離施設に連れて来られた。
安全面を考慮してってのは分かるが、なんか事実上の囚人みたいな扱いに息が詰まる。
「事実上の囚人よ貴方たちは」
ニコ鬼に心読まれた。
「俺が一体何をしたっていうんだ!」
「お前、勇者殺したやないかい!」
あ、そうだった。
なんか、俺の中ではすでにmobになってた。
あいつって重要人物だったっけ。
勢いで殺しちゃったなぁ、経験値おいしかったなぁ。
「あの時はその場の雰囲気に飲まれてどうかしてた。
反省してます」
「分かってるなら良いんだけど」
「それでなんですけど、あの勇者をゾンビ化させてもう一回殺したら、同じ経験値貰えたりします?」
「お前、全然反省しとらんやないかい!」
痛い、殴られた。
Aランク探索者のゲンコツはマジで痛い。
いや、これダメージ入ってるんじゃない?
「真面目に回答すると、元がどんな人間であれゾンビはゾンビよ、経験値はゾンビ分しか入らないわ」
「なるほど、ゾンビってネクロマンサーが生み出せるんですよね」
「そうね、経験値的にはゴブリンより低いはずよ」
…あれ、勇者殺す、ノバで巻き戻す、勇者殺すってやったらどうなるんだ?
「お前、今不穏な事考えとるやろ」
「そんな事ナイデスヨ」
「お前は考えてる事顔に出やすいわ、ええか!何考えてるか知らんけど絶対やったらあかんで!」
それはもう、何しようとしてるか分かってる人の言葉です。
「はーい、わっかりましたー」
「分かってないわね」
「分かってへんな」
「ええか、ウチらは一般人より簡単に人を殺せる力を持っとる。
そして他人の死に対して鈍感になる環境もある。
だからこそ、簡単に人同士の殺し合いを認めちゃあかんのや。
それやると、もう相手がダンジョン内のモンスターと変わらんく見える」
「凄く欺瞞が多いけど、それでもギリギリの所で倫理観を持っていなきゃダメなのよ。
じゃないと駆除の対象にされてしまうわ」
「ええか、一般人から見たら、ウチらもモンスターもダンジョンにいる危険生物や!だから、お前が他の探索者をどう思ったとしても、それをおくびにも出したらあかん。
ウチらは決して人を殺さない。
あれも事故死やった。
わかるやんな?」
「…分りました」
よく分からないけど。
人殺しが推奨されない世の中なくらいは俺だって分かってる。
世の中が探索者を人としてカテゴリーに入れてるかどうかは割と微妙だと思うけどね。
「それで、結局勇者その他を殺した俺はどうなるですか?」
「どうもならんで、勇者は事故死や」
「法律上は何もお咎めないわよ」
「なんだ、じゃあ…」
「せやけど、それで納得しておらんやつが、ぎょうさんおるんや」
「そういう輩を納得させる為にも貴方達は囚人のように監視されなければならないわ。
その方が安全だしね」
「あ、俺だけじゃないんだ」
「ランクアップした人達全員ね」
「それは悪い事したなぁ」
「お前を襲うより、あっちを拉致してお前にいう事聞かせる方が楽そうやろ」
「他の人たちは貴方よりも保護の意味合い強いわね」
なるほどなぁ。
「色々理解したんでウサギ小屋行ってもいいですか?」
「なんで、そうなんねん!」
「え、だって実質囚人ってだけで、本当に拘束されるわけじゃないし、そろそろ新戦力欲しいし」
「クソ!ちょっと上に許可貰って来たるわ」
なんだかんだで恩義が発生してから二人の対応が甘くなった。
しばらくすると、許可を持って来てくれた。
「ほな行くぞ」
「え、ダメですよ、俺一人で行きますよ」
「なんでや?」
「俺だって他人に見せられない秘密があるんです。
特にウサギに関しては。
何かあればウサギに守ってもらうんで大丈夫ですよ」
だってそうしないと経験値がやって来ないでしょ。
「それならそれでええけど、どこのどいつが何してくるか分からへんからな。
くれぐれも殺すなよ…ダンジョンの外ではな」
ばれてーらー。
「絶対殺すなって言わないんですね」
「ダンジョンの中で、命狙われてそれでもやり返すななんて言えるわけ無いやろ」
「探索者は基本自己責任ですからね、特にダンジョンの中では」
話が早くて助かる。
もう、襲い掛かってくる奴らに躊躇するような精神は残ってないな。
少し楽しみにしてる自分がいるもんな。
そう思いながらウサギ小屋へと向かった。
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