第78話 乱闘 2

「た、助けてくれぇ」

「あかんわ、そこまでいったら致命傷や治しようない」

 俺鬼の方が勇者を見ながら言う。


「せ、聖女を、聖女…」

「失った血を元に戻すのはいかにも聖女でも高いレベルが必要なの、あの子にはまだ無理ね」

 ニコ鬼の方が勇者に言う。


 勇者の取り巻きに動いているものはいない。

 俺が全て屠ったからだ。


 勇者のバフは強かったが、かけられた方が弱かった。

 急激なステータスアップに慣れていない為十全に増加した力を使いこなせていない。


 にも関わらず、強くなった万能感のため行動に隙ができるので、ウチのウサギに良いようにやられてしまった。


 日頃から勇者のスキルに慣れている盾職と魔法職は鬼2人が対応していたので、不意をついて倒した。


「頼む、なんでも言う事聞くから、助けて…」

「無理や、手遅れや」


「たすけ…たす…た…す…」

 勇者が動かなくなった。


 人間殺すと経験値ってこうなるんだなぁ。

 これが今回の俺の感想。


 俺が原因で目の前で人が死んでいく事に対する感情が湧いてこない。


「ガキィ、わざと殺したなぁ!」

 俺鬼の方がこちらを向き直って怒鳴ってきた。


「え?だって殺していいんでしょ?」


「だからって、普通はこの人数を躊躇なく殺す?あなたもネジ外れてるタイプだったのね見た目に騙されたわ」

 ニコ鬼も非難めいた口調になる。


「えー勝手に俺巻き込んでおいて、自分たちの思い通りにいかなかったからって、俺に文句言うのってどうなんですか?」


「…くそが」

 俺鬼が吐き捨てるように言ってくる。


「でも困ったわね、動けなくても生きていれば色々誤魔化し用があったんだけど、死んじゃったら、どうにも出来ないわ」


「やっちまったもんはしゃーないな、俺たちも協力はしてやる。

 その代わりお前もちーっと協力せぇや」


「え?だって巻き込んだのそっちじゃん!なんか俺が勝手にやった見たくなるの?納得いかないんだけど!」


「うっさいわ!ものには限度っちゅうもんがあるやろが!」

「えーなんか理不尽さを感じる」


「それに試練の洞窟連れてきたなら、手伝う言うとったやないかい!」

「別にお…あ…戦乙女で連れてきたんじゃなくて、協会の偉い人のおかげでしょ」


「表の現象だけ見い!俺らがここにいる、試練の洞窟はクリアした、次は俺らと一緒に行く、なんも問題ないやろが!」

 何もかも問題じゃねぇか!


 だが、ここは立派な日本人として正々堂々周りの雰囲気に迎合しよう!

 長い物には巻かれろ!これぞ日本男児!


「…はーい…わっかりましたぁ」


「さてっと、ここまででゴブゴブさんと健二君だっけ、あなた達はパーティから抜けて貰うわね。

 そういう契約だったから問題ないでしょ?」


「そうですね、私はここまでとなりますね」

 ゴブゴブさんはあっさり了承した。

 さっきの乱闘がかなり衝撃的だったようだ。


 さっきこっそり

「すまない、僕は凡夫なテイマーなんだ」

 って小声で言ってきてた。

 おそらく最初は無理してでもついて来ようとしてたんだと思う。


 なんか俺が壊れてたんで、余計ゴブゴブさんにはこのままでいて欲しいな。

 ありがとうゴブゴブさん。

 そしてさようならゴブゴブさん。

 俺は修羅の道を進む事にします。


 頑張るのはウチのウサギで俺は見てるだけだけど。


「あの!僕は!その…出来れば…」

 俺は健二の肩に手を置いて首を横に振った。

 お前はこっち側に来ちゃいかん。


「お前はこのまま会社を受け継いで俺を権力方面から守ってくれ!

 おれ、そっち方面で頼れる奴お前しかいないんだわ」


「…うん!分かった!何するか知らないけど僕も頑張る!絶対君を守る盾になってみせる!」


 俺たちはガッチリ握手した。

 白銀だかなんだか知らないけど、こっちには大企業の御曹司が味方にいるんじゃい!


 いざとなったら匿ってもらって海外逃亡手伝ってもらおう。


 俺、白銀殺したら、東南アジアに逃亡するんだ…。


「話し合い終わったか?なんぼゴネても結果は変わらんのやからさっさと契約終了させてんか?」

 なんだこいつ!お前は鬼か!

 あ、鬼だったわ。


 これでゴブゴブさんと、健二の2人のテイマーとそのモンスターとは分かれて、戦乙女になんだかよく分からない所に連れて行かれる事になった。


 俺は心でドナドナを歌いながらついていった。

 恵ちゃん、朱里ちゃん、光莉ちゃんが付いてきてくれるだけが心の支えだった。

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