伝説のうさぎ使いって何！？【40万PV突破】

第77話 乱闘

　乱闘になったら、強いのはパルだ。

　即死が強烈すぎてそれしか無いと思われてるけど、実際はそんな事はない。

　しかも新しい芸を覚えた。

　パルが一瞬止まると、金遁の術で針を無数に出す。

　そこに向かって、ピノが雷魔法を放つ。

　雷魔法は単体でダメージ重視な魔法と、拡散して状態異常重視の魔法に分かれている。

　だが、パルの針を経由する事で、拡散してダメージ重視な技が打てるのだ。

　あ、そういえば、死なない程度にって指示忘れていたな。

　どうしよう…もういっかな。

　元々他人の死ってものに対して心動かないしな。

　あいつら、こっちを殺しにきてるもんな。

　とはいえ、勇者のバフスキルってやっぱりすごいな。

「お兄さん、もしかしてヤル気なん？」

　恵ちゃんが小声で声をかけてきた。

「うん、これからそっち側に行かないとならないでしょ？

　予行練習にちょうど良いかなって思って」

「そうなんや…なんか、ごめんな」

「うん？大丈夫だよ、嫌なら最初から断っているし」

「うち、何があってもお兄さんの事、守るから…」

「それはありがたいけど、そこまで無理しなくて大丈夫だよ」

　乱闘は終始有利に進んでいた。

　双子の鬼は流石にコンビネーションでお互いをカバーし合うので、防御力の薄さが全くハンデになっていない。

　うちはピノが魔法から物理攻撃にシフトチェンジ、パルが金遁と手裏剣で中距離、ノバがスピードで撹乱する遊撃、大きい攻撃や避けきれない攻撃はドンが庇うでダメージを肩代わりするという、見事な連携で戦ってる。

　しかも、聖女がこっそりドンに回復魔法飛ばしてるから盤石だ！

　…バレたら各方面からお叱りを受ける気がしないでもないが、まぁ、大丈夫だろう。

「危ない！」

　健二の声が聞こえた。

　いきなり俺の目の前に玄武がカットインして来たなと思ったら、四神と麒麟が一斉に攻撃を始める。

「うわぁ！」

「痛てぇぇ！」

「やめろ！やめろぉ！」

　どうやら、俺を倒せばウサギが止まると思った集団が数人俺に奇襲をかけにきたらしい。

「健二！ダメじゃん！お前は許可の申請に入ってないんだから！」

「友達を守るのに、そんなの関係ない！」

「…お前まじでいいやつだな、ありがとうな」

　俺は自分のウサギ達に思念を送った。

　皆殺しにしろと…。

　健二が戦ったと証明できる人間を消してしまえと。

　こんな優しい真面目な男に、財閥の御坊ちゃまで将来有望な人間に、変な汚点をつけさせてはならない。

　俺にとって人間の命は平等ではないんだから。

　価値の高い命のために、価値の低い命は消えて無くなってもらおう。

　ウサギ達の動きが変わった。

　やっぱり、テイマーとテイムモンスターはやはり繋がっているんだな。

　俺の心の持ちようだけで、動きが一気に凶悪になった。

　今まではどこか迷いがあったせいか、動きに緩さがあった。

　明確な殺意が必要だったんだな。

　ウサギ達が1人、また1人と屠っていく。

　そんな中、俺の隣で半泣きどころかほぼ全泣きに近い状態で恵ちゃんが落ち込んでた

「ふぐ、えぐ、うぅ、うち守るって言ったばかりなのにぃ」

「気にするなって、あれは健二の動きが早かっただけで、健二が居なかったら、恵ちゃん間に合っていただろ？」

「そうやけど…でも、でもぅ」

「次からな、うん、次から」

「…うん」

　恵ちゃんを宥める余裕があってよかった。

　戦況が安定しているおかげだな。

　そして見ていて気づいたのが、どうやら鬼達は勇者を本気で殺そうとしてない。

　やっぱり、勇者を殺すのは色々問題起きるんだろうな。

　勇者もそれわかってるから、こんな場所でも乱闘出来るんだろうな。

　どうせ俺は殺されないって。

　ヨクナイ。

　自分は安全な場所で人を攻撃するのはヨクナイ。

　俺、ネットで匿名で叩くやつとかも嫌いなんだよな。

　ノーリスクで誰かを死に追いやる奴は、ちゃんと死のリスクを背負って欲しい。

　ちゃんと、死んでもらおう。

　あ、うん、もちろん俺はそんな危険な場所に行かないよ。

　だってヘタレだし。

　俺自身はセコク、汚く、狡賢く、生きていくよ。

　それはそれ！これはこれ！心に大きな棚を作ろう！

　そして勇者だけど、後悔の時間も与えたいな。

　よし！

　俺はピノ、パル、ノバに指示を出した。

　勇者の太腿を食いちぎれと。

　人間の意外な急所、太腿。

　太い血管が通っており、腹を刺されるより死亡率高いらしい。

　そのくせ即死しない。

　後悔しながら死んでいくには最適な場所だ。

　この戦闘で俺は踏み込んではいけない領域に踏み込んだ自覚をした。

　でも不思議と後悔も嫌悪もない。

　やっぱり俺は壊れてるんだな。

　そう自覚できる瞬間だった。