第76話 試練の洞窟 4

「少しは期待したんですけど、本当全然手伝ってくれないんですね?」

 ダンジョンからの帰り道におれ鬼にちょっとだけ言ってみた。


「こっちにも都合っちゅうもんがあるんや!黙ってろや」

 やっぱ怖い、恵ちゃんの後ろに隠れようかな。


 でも、この2人と合流してから、完全に空気化してるから万が一バレるような真似したくないだろうしな。

 困ったもんだよ。


「「釣れた!」」

 鬼2人が同時に小さく呟くと、ニヤァっと口角が上がる。

 まさしく鬼の形相だ。


 入り口まで戻ってすぐの事だった。

 視線の先には奴がいた。


「なんや、おのれらなんか用でもあるんか?」

 鬼が鬼の形相で相手に話しかけた。


「テメェ等のせいで勇者特権剥奪されたんだぞ!どうしてくれる?」

 鬼を無視してこっちに向かって叫ぶ奴。


 しるかー!自業自得じゃねぇかばーか!

 と、心の中で怒鳴っておこう。

 由緒正しい日本人の庶民はとりあえず謝る!


「あ、ごめん」


 言わずと知れた勇者パーティだ。


 前回と違うのは、唆されたのか、さっき鬼にボコボコにされたはずの連中は取り巻きとして勇者側についてた。

 復讐させてやるとか言われたんだろうな。


 あ、良く見たら前にお灸を据えた奴らも混ざってるな。

 本当に勇者がバックに付いてたのかな?


「今度はそっちがボコボコになる番だな!今までみたいなセコイ手は使わせねぇからな!」

「え!セコイ手は使ってないけど。むしろそっちじゃない?使ってるの」


 思わず言ってしまったけど、やっぱりこの言葉に逆上した


「勇者特権の教導願い使うわ」

 数がいる事で完全に強気になってるのか、自信満々にそう言い放つ


「えーまたぁー」

 正直うんざりなんだよな。


「ハッ!お前勇者特権剥奪されとるやないけ、なんか勢いでゴリ押そうとしてもそうはいかんで」


「グッ」

 勇者が凄い顔で睨む。


「安心せい、ちゃんと戦わせたるわ!ただしこっちの案件やけどな!」

 そう言って鎮圧許可証を勇者に見せつける。


「もしかして、これ狙って情報リークしました?」

 ニコニコしてる方の鬼に小声で尋ねる。


「その通りよ、いつも教導願いで気に入らない奴をいじめてるアイツに、似たような目に遭ってもらいたかったの」


「え、でもこのままだとこの場でやる事になりません?」


「そうよ」


「大怪我したり最悪死にますよ」


「そうね」


「良いんですか?」


「私たちは構わないわよ」


「…これって俺たちは見学だけで良いですかね?」

 なんだろう、嫌な予感しかしない。


「あ、大丈夫よ協力者として登録は事前にしてあるから、一緒に乱闘しても問題ないわよ」

 それはだいじょばない。


「違ったらすいません。 これって俺を餌に勇者抹殺する計画ですか?」


「察しが良くて助かるわ」

 恵ちゃん助けて…。


 恵ちゃんは静かに首を横に振っている。

 そして、やられたわーってジェスチャーしてる。


 かんっっっっぜんにはめられてるじゃねぇぇぇかぁぁぁ!


「恵ちゃん!恵ちゃん!これどういう事?」

 慌てて恵ちゃんに聞いてみた。


「え、ウチも分からん。 あのアホ勇者やり過ぎたから上が動いたんとちゃう?

 ちょうどええやん、このまま永久に動かないようにしたればええねん」


 わかってたけど、恵ちゃんも過激派な人だった。


 逃げ道ねぇじゃねぇか!


「しょうがない、逃げられないならやるしか無い! みんな覚悟は良いか?」


「え!あなた以外は登録してないから他の人は戦っちゃダメよ」


「この計画作った奴1回ぶん殴ってやりたい!」


「気持ちは分かるけど、それは難しいわね」

 ニコ鬼さん、俺の独り言にリアクションしなくても良いんだよ。


「鬼…アマゾ…戦乙女の2人は戦うんですよね?」


「…後ろから誤射したらごめんね」


「それだけはマジで勘弁してください」


 こんな会話を交わしているうちに既に向こうの覚悟は決まったようだ。

 向こうも全員逃げられないと覚悟したようだ。


「楽しくなってきたなぁ、お互い死んでも恨みっこなしやで!」

 おれ鬼はヤル気満々だ。


「うわぁ、でもやるなら覚悟決めないとな」

 しょうがない、このまま抵抗しなければ死んでしまう事になる


「クソがぁ!」

 勇者が何か筒のようなものをへし折った。

 そこから煙のようなものが溢れ出る。


「へぇ、即死と状態異常が怖かったのね、あれは一時的にこの空間を即死を含む状態異常無効にするアイテムよ」

 ニコ鬼さん解決ありがとう。


 むこうもスキルを次々使っていく。

 完全に乱闘の様相だ。


「さ、いくわよ」


 覚悟を決めてうちの子たちを乱闘に突っ込ませる。

 もちろん俺は安全圏まで全力で逃げた。

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