第67話 話し合い

 須賀さんが帰って行った。


「お兄さんどうするー?」

「わぁ!ビックリした!ビックリした!ビックリした!」

 いきなり真後ろから恵ちゃんが声をかけてきた。


 え?居なかったよね?どこかに隠れてた?


「お兄さんの反応オモロいからついついやってまうわ」

 ニシシシって感じで恵ちゃんが笑う。


 楽しいなら良いけどさ。

 可愛いって得だよね、許しちゃうもん。


「どうするも何もあれに拒否権あるの?」


「んー正直無いわね」

 お姉さんが身も蓋も無いことを言う。


「ウチ的にはその白銀の勇者って復讐相手でもあるし、近くにいれるのも悪く無いか思うんよ」

 おいー!さらっと重要なこと聞かすなよー!


「恵!」

 ほら、お姉さんもちょっと怒ってる。

「そういう事は逃げ出せないくらい周りをガッチリ固めてから言いなさい!」


 あ、コッチも酷かった。


「大丈夫やでー、お兄さんは全部話しても協力してくれるってウチ信じてるもん!」


「うーん、ここまで聞いちゃったら今更隠されてもなぁ思うし、とりあえず話聞いちゃってもいいかなって思う」


「私と恵が施設で育ったって事は言ったわよね」


 ここから話された内容は想像より凄まじかった。


 施設というのは、優秀なクラスを作り出す為の実験場だった。

 端的に言えば人工的に勇者を作り出す実験。


 非人道的な事も含めた様々な研究を行い、人体実験を繰り返した中で3人だけ特殊なクラスにつけた。


 お姉さんこと浅井さんのエグゼクティブカドレー、恵ちゃんのグリムリーパー、そして白銀の勇者の本当のクラス、ピカレスクヒーロー。


数百人、数千人の犠牲の結果わずか3人、しかも勇者ではないクラスの発現。


 実験は失敗とされた。

 成功してればまだしも、失敗してしまった為、証拠隠滅される事になった。


 皆殺しである。


 指示を出したのは西日本側のエリア代表の高千穂、そして実行したのは白銀の勇者だった。


 希少なクラスについていた2人は生かされたが、それ以外は誰も生き残らなかった。

 いや、生き残らさなかった。


 白銀の勇者であれば救えた命もあったはずだ。

 だが彼は誰も救わなかった。


 お姉さんが愛を誓い合った相手も、恵ちゃんが妹のように可愛がっていた子も、全ては白銀の勇者の経験値になった。


 そして2人は復讐を誓い、生き残る為に協会の暗部として活動する。


 そしてやっと、東側のエリア代表の須賀と手を結び表側に出てくることが出来た。


 裏と完全に切れたわけじゃ無いが、徐々に関係性を薄くしている所だという。

 …

 …

 …

 聞くんじゃなかった…。


「……ここまで聞いて、じゃあ頑張ってって逃げたら許してくれる?」

 2人が満面の笑みで首を横に振る。


 ですよねー。


「分かった、腹括るわ」

 なんだかんだ言ってこの2人を身内って感じちゃってるもんな。

 聞いちゃった以上、もう後戻りはできないし、したくないもんな。


「お兄さんならそう言ってくれると思うてた」


「それで、質問なんだけど、お姉さんのクラスってどんな事が出来るの?」


「意味的には多国籍企業の上級管理職って意味なんだけど、基本的には情報の分析や管理するのに必要なスキルばっかりね。

 一応戦闘職に分類されるんだけど、多国籍って部分はダンジョンでは他パーティって解釈になってるみたいで、統括管理業務っていうスキルで複数のパーティを1つのパーティとして運用出来るわ、貴方のしてる腕輪の人間版ね」


「めちゃくちゃ便利なスキルだけど、今のウチの事情には噛み合わない感じですね」

「そうね、後方支援のクラスって思ってもらって構わないわ」


「あと、白銀の勇者の名前ってなんですか?」

「それがね、不思議と誰も思い出せないの。

 一般的にも白銀の勇者って言われてるでしょ?」


「ウチの認識阻害や認識誤認に近いスキルなんか持ってるんやと思う」


「白銀さんのスキルに関しては?」

「勇者と同じようなスキル持ってるのは知られているわ。

 他にも何か持ってるはずだけど、全く情報がないのよね」


「勇者特権、個人情報の秘匿を使われてるから、余計情報出て来んのよね」


「勇者特権せこ!」


「勇者は国のステータスみたいなもんだから…どんなクズでも勇者は勇者なのよね」

 金色のあれの事かな?


「あーそれで思い出した。

 勇者殺したらその後大変な事になるんじゃないか?」


「そうね、なるわね」

「それってどうするの?」


「それを含めて協力出来る?って話になるわよ」

「捕まるんじゃない?死刑とかならない?」


「そこまでならないように、須賀に取りいったのよ。

 毒は毒で制するしかないから」


「あっちも毒なんだ」

「そうよ、私達の大事な人に手を出したか、出してないかの違いだけよ」


「これってノーの選択肢ないよなぁ」

「毒を喰らわば皿までってやつね」


「食ったつもり無かったんだけどなぁ」

「今から食べる?私達を?」


「あ、いや、遠慮しときます」

 こう見えて、ヘタレなんです。

 ムッツリじゃないからね、そこだけはハッキリさせときたい。


「あとは他の皆んなを巻き込むかどうかだなぁ」

「え、そんな酷い事出来へんよ、危険やし、見返りないし」

 …

 …

 …

 おい!

 これは流石に、ジト目で睨んでいい案件だよね!

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