花の少女

少女ーえりかは無邪気で明るい小さな女の子。友達と綺麗だからと集めたお花を彼女の母親に嬉しそうに持って行ったところだ。


「ママー!みてみて、綺麗でしょ」

「こらっ!えりか、お花さんも命だからちぎってしまったら可哀想でしょう」

「でもママに見せたくて……」

「それはありがとう。次からはママを呼ぶか絵にしてもってきてね」

「はーい!」


そんな話をした次の日、少女は心に誓います。

(昨日ママと指切りした約束。ママの言う通り、お花さんを大切に大事にするんだ!)

昼休みになるやいなやノートと鉛筆を抱えて校庭に飛び出しました。

校庭を一周して、その日は見かけた小さな白いお花をたくさんノートに書いて母に見せました。


「ママ!これ今日描いたの!」

「あら上手、これはシロツメクサかしら?お母さんにも見せてくれてありがとう」


それがきっかけで、少女はお花の絵を描くことを始めました。彼女の母もその度に一緒にお花の名前を探したり、どんなお花か一緒に調べてくれました。少女はどんどん花のことが好きになっていきました。

それを繰り返していたある日、少女は見たことの無い存在と出会います。


「あら?あなただあれ?」

校庭の隅の方、小さなお花の傍にそれと同じくらいの小さな人が眠っています。

(こんな小さな人、初めて見た!)

お人形さんのようなその小人は背中に透明で虹色に輝く羽を持っています。

少女は思わずその小さな人をまじまじと見つめて、おもむろに手を伸ばしました。

その手が触れかけた瞬間、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り少女は慌てます。

(掃除の時間だ!)

少女は慌てて持っていたノートとペンを持って校舎に走り始めました。


「あら、それはなに?」

「これは、妖精さん!お花のそばで眠ってたの」


家に帰ったあとも少女は昼間に見た妖精のことが忘れられません。いつもなら家では書かないノートを取りだしてあの美しい羽と小さな体を思い浮かべます。

(お話してみたいな、あの羽で飛べるのかな?)


次の日、少女は昨日妖精を見た場所にもう一度訪れます。今日は給食を出来るだけ早く食べたので昨日より早い時間に着きました。

すると、昨日と同じ妖精が花のそばで座って花びらを食べていました。

少女は妖精の近くにしゃがみました。

妖精は手のひらほどの大きさで、今まで見た人の誰よりも美しく可愛らしい顔立ちをしています。

「妖精さん、こんにちは」

妖精は少女の呼び掛けにキョロキョロと辺りを見回して、少女とバッチリ目が合いました。

妖精はまさか自分の姿が見えるとは思っていなかったのでとてもびっくりして慌てて近くの葉っぱの後ろに隠れました。

少女は姿が隠れてしまったことにガッカリしました。

そこで、チャイムがなります。

「また来るね」

少女はそう言葉を残して学校へと走り去りました。


それからも少女は妖精を訪ねます。小さな容器に水を汲んだり、綺麗な花弁を拾って妖精に贈ったり。そのうち妖精は少女に姿を見せて共に時間を過ごしてくれるようになりました。

妖精が話すことはないですが、妖精は少女の言葉を何となく理解しているようでした。

少女はどんどん妖精が好きになりました。周りなど見ずに毎日妖精の元に足を運びました。

そんな楽しい日々が続いたある日、事は起こりました。


「妖精さんこんにちは」

少女はできるだけ妖精を驚かせないように声をかけたあと、ポケットから小さなクッキーを取り出しました。

「今日は食べ物を持ってきてみたの。食べれるかしら?」

妖精は一瞬振り向いたものの、あまり興味はなさそうです。少女はせっかく持ってきたのに食べてくれない妖精に少し腹が立ちました。

「ねぇ、一口だけ食べてみて。美味しいから」

どんなに声をかけても妖精はクッキーに近付きません。妖精は知っていたのです。人間の食べ物は食べてはいけないことを。それは美味しすぎるがあまり妖精の身を滅ぼしてしまうことを。

少女は喜んで貰えると思っていたため、期待していた反応が得られなくてとてもガッカリしました。

「食べてくれないなら、貴方のことお友達に教えちゃうんだからね!」

口をついて出たのは嘘。思ってもいない言葉。

妖精はそれを聞いてさすがにぎょっとしたような表情を少女に向けました。自分の存在が人間にとって珍しいことは当然わかっていたのです。

少女は妖精の表情を見た瞬間、自分が言ってはいけないことを口にしたことに気がつきましたが、些細な苛立ちから訂正することも出来ませんでした。

それから3日間雨が降って再び同じ場所を訪れた時、妖精のための全ては雨に流されて何もかもなかったことになっていました。


過去少女であった女性は当時のことを思い浮かべては、あの数日間は私に訪れた幸運で幻のようだったと言います。

「私は学んだの。言ってしまったことに取り返しはつかないということと彼女は本当に妖精で私は夢を見ていた訳ではなかったということをね。」







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今日の夢明日の夢 れい @waiter-rei

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