第2話 食べられました

「……頭痛ってぇ」


 俺が目覚めるとまず襲ってきたのは鈍い頭痛。

 思わず声が出る。

 俺はあの時、金髪の鬼に……


「なにが……うっ」


 頭痛の原因がなんだったか思い出そうとして、ぞくりと体が震える。


「いや、鬼じゃなくて怒髪天を突いたユーリか……」


 数年の付き合いになるが、あそこまで激怒したユーリは初めて見た。

 俺があいつのお気に入りのスイーツを盗み食いした時より怒ってたが、おっかなさすぎるだろ。


「誰が鬼だって?」


 俺の頭上を見上げると、引き攣った笑顔を浮かべたユーリが立っていた。


「いきなりパーティ追放した上で頭ぶん殴ってくるやつ以外に誰がいるんだよ」


 今回の一件、穏便に済ませようといい顔をしていたが、クビの上意味のわからない暴力を振るわれて頭にこないわけがない。

 嫌味のひとつも言いたくなる。


「あ、いや……それは……」


 追放を宣言した張本人が、妙な歯切れの悪さを見せる。それにどことなく顔色も悪いように見えるのは気のせいだろうか。

 ……なにかあるのか?


「なあ……いや、なんでもない」


 いや、そこまで聞いてやることもないか。

 もう同じパーティでもないわけだしな。


「……なんで、あっさりと脱退を呑んだんだ?」


「はあ? なんだよその質問は……」


 神経を逆撫でするような問いかけに、辛辣な言葉を返しそうになるが、悲哀に満ちた表情を浮かべているユーリを見て、思いとどまる。


「……追放したいなんて思った時点で、パーティには崩壊しかないだろ。そんなやつがパーティに縋りついても誰のためにもならないと思う。だからだよ」


 命のやり取りをする冒険者なら、その不和が死ぬことに直結するから余計にな。


「そうか……。いや引き下がるな! 私たちの絆はそんなものだったのか!?」


「……え?」


 なんか怒られたんだけど。


「私は不安だったんだ! 付与の技術は素晴らしいし、冒険者としての知識も豊富、雑務もできて料理もめっちゃ美味しい! そんな君が本当にパーティに愛着を感じているのか不安だったの!」


 えぇ……。

 そんなこと察せられるかいな。


「まじか……。いやそれにしても追放はやりずきだろ」


「だって! 私たちの目標、みんなで住める家を買うって決めてたじゃないかっ。それで君を外すわけないだろう」


「とは言っても……」


 いや、確かに追放を受けるまではユーリからの信頼をひしひしと感じていた気がする。

 例えば--


 あるダンジョン探索のとき


「レイのご飯はいつも美味しいな。一生食べていたいくらいだよ」


 とか。


 あるダンジョン内での戦闘中


「やっぱりレイのバフは効きが良いね。普通は突然の変化にこっちで調整がいるけど、それもほとんどいらないようになってるしっ」


 とか。


 振り返ってみれば嫌われるどころか好かれてるような。


「うーん……」


 いやでも察するの無理じゃね?

 なんて言う前に、ユーリが口を開いた。


「なのに脱退するなんていうから、私は我慢できなくて襲ってしまった」


 そう言いながらユーリが俺の上にまたがる。


「おい、なにしてんだ--ぐへ」


 体を起こそうとした俺を押し倒す。


「私は怒っているんだ。私はずっとこの溢れんばかりの愛情を表現してきたというのに、君はずっと……」


 ユーリは言葉とは裏腹に、妖しい笑みを浮かべ、俺を襲う。

 ただの付与魔法使いである俺に、前衛職である剣士のユーリに力で勝つことはできなかった。

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