第22話 誓い

「これでも小学校の頃に比べたら大分マシになったんだけど、高校に行くことを考えたら最近またちょっとね」


 中学に上がった時と違い、高校に進学すれば周囲の環境はガラリと変わる。見知った顔も少なくなり、女子同士の人間関係さえも一から作ることになりかねないのだ。不安が募り、心が不安定になっても何らおかしなことではない。


 この子は今だけでなく、これからも事あるごとに、こんな思いをしながら生きていかなければならないのだろうか。


 俺は手にしているマグを両手でギュッと握りしめ、美月に問い掛けた。


「高校はどこに行くつもり?」

「え…?」

「俺も一緒に行くよ」

「陽翔…」


 美月は頬を緩めて俺の名を口にする。けれどそれも束の間、彼女は沈痛な面持ちになり、徐に俯いた。


「ごめんなさい、やっぱり、貴方を巻き込んじゃダメ…」

「美月…」

「私、期待してた。貴方ならそう言ってくれるんじゃないかって思ってた…」


 俺に触れて平気だったことで、安心感を覚えたことで、美月の中に一縷の望みが生まれた。俺が傍に居続ければ不安が解消され、心安らかな日々が手に入れられる。


「昨日だって、今日だってそう、私、貴方の優しさに付け込んでる。貴方を誰にも渡したくない、自分だけのものにしたいって。うちに連れて来たのだって…、ホントに、なんて嫌な女なんだろうね」


 美月は持っていたマグをテーブルに置き、顔を上げて微笑んで見せた。けれど、それは笑顔と呼ぶには余りにも寂しげな、彼女自身が今にも消えてしまうのではないかと思えるほどに儚さを滲ませていた。

 果たして本当に優しいのが誰かなど、考えるまでもない。俺は自分のマグを美月のマグの隣に置いた。


「それでも良いよ」

「え…?」

「俺が君と一緒に居たいと思っただけだから」


 美月は大きく目を見開いたかと思うと、見る見るうちに瞳を潤ませていく。

 俺は迷うことなく、両手で包み込むように美月を抱き寄せた。そして自分の想いを言葉にする。


「俺は君を離さない、ずっと君の傍に居る」

「はる、と…」


 彼女はクシャリと顔を歪ませ、細めた目から涙を溢れさせた。


 俺たちは言葉を交わすことなく、ただ静かに体を寄せ合っていた。しばらくして、美月が想いを伝えてくれた。


「私も貴方と同じ…、貴方を離したくない、ずっと貴方の傍に居たい」

「うん…、ありがとう、美月」


 俺の中に温かな想いが広がる。けれど、これは恋じゃない。きっともっと強くて大切なもの。

 俺と美月は体を離して暫し見つめ合う。そして再び寄り添い、お互いをしっかりと抱きしめた。


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