第19話 彼氏
さて、昼休みである。
昨日の約束どおり、美月と一緒に昼食を頂いたわけだが、二人きりでとはならなかった。美月が普段から昼食を共にしているクラスメイトの女子三人が同席しているのだ。
「うん、ご馳走様でした。どれも美味しかったです」
「ふふ、お粗末様でした。お口に合って何よりです♪」
「ぐはー、ご馳走様はこっちのセリフよ。わたしたち、完全にお邪魔虫じゃない」
「ホントにもう、人前で平気で『あ〜ん』するとか、美月のデレもすごいけど、天乃くんも大概だよね」
「いきなり交際宣言したと思ったら、イチャイチャ全開って、何なのこのバカップル」
散々な言われように羞恥心が掻き立てられ、両手で顔を覆いたくなる。けれど、これも当初の予定どおりなのだからと自分に言い聞かせて、何とか平静を装った。
昨日、美月と二人で今後のことを相談した。その際、俺と付き合うことで美月が男嫌いを返上したものと勘違いした男子が近寄って来ないように、最初から周りに熱々ぶりを印象付けることにしたのだ。
「良いでしょ? 陽翔とのこと隠すの止めたんだから、もう我慢なんかしないもん」
「それそれ、ホントにさ、美月と天乃くんが付き合ってるって全然気付かなかった。いつからそうだったわけ?」
「いつからって言われると…、ねえ? 陽翔」
「うん、そうだね。前々から気にはなってたんだけど、学級委員をやってるうちに、いつの間にかって感じかな」
「うん、ホントに何となくって感じだよね」
「何となくでこのイチャラブっぷり?!」
今更言うまでもなく、俺たちが言ったことは方便である。これまで意識していなかったのに、昨日の放課後になって唐突に付き合うことにしたと言ったところで、多分誰も信じない。何せ当の本人である俺でさえ、夢にも思っていなかったのだ。
女子が苦手な俺とあからさまに男子を避けてきた美月のカップリングなど、やはりクラスメイトからは想像できないだろう。特に美月の友人にとっては、付き合いが長ければ長いほど違和感が拭えないはずだ。
「うーん、美月って小学生の時から男子のことG扱いしてたのにねー」
「ちょっと、Gとか言わないでよ、想像しちゃうじゃん」
「だってホントに酷かったんだよ? 塩対応ってレベルじゃなかった。ねえ美月、あれって何だったの? 演技?」
その点については俺も気になっていた。男子=Gと言うのは如何なものかと思うけれど、この際置いておくことにしよう。
「演技じゃない、今だって男子は嫌だもん」
「てことは、何? 天乃くんって男子じゃないの? 実は女子?」
「あー、それ納得できるかも。この人中性っぽいし、メイクしたら映えそう」
「それ面白そう。ねえねえ天乃っち、放課後ってヒマ?」
「ちょっと三人とも止めて、
「(彼氏、か…)」
美月が口にした言葉が、俺にはピンと来なかった。確かに俺たちは付き合っているのだから、彼氏・彼女と言われるものなのだと言うことは分かる。けれど、実感が湧かないと言うのが正直なところだ。
なぜなら、俺も美月もまだお互いに恋愛感情を持っているのかどうかさえ、確認し合っていないのだ。
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