第11話 二人暮らし

 ピロロ〜ン♪


 土曜日の深夜、まもなく日付が変わろうとする頃に、俺のスマホから着信音が流れた。海外赴任している父親からメッセージが届いたのだ。


「またこの時間かー、相変わらず時差を無視しやがって」

「あはは、お父さんらしいね」

「まったく、今さら何言っても仕方ないのは分かってるけど」

「ほら、返信しないと」

「は〜、そうだね。すぐ終わるからちょっと待ってて」

「うん、その間、私はこの子と遊んでるから」

「ちょ、ちょっと美月、それじゃあ入力しづらいんだけど」

「そお? じゃあ、こっちのぽよぽよくんをぽよんぽよん♪」

「はうっ?! それ、何にも変わってないからね?!」


 俺たちの両親は大学を卒業して、とある商社に同期入社し、数年後に大恋愛の末、社内結婚していた。


 ポロロ〜ン♪


「あれ? 今度はお母さんからだ」

「ほほう、それじゃあ、早く返信してあげないとね〜」

「ちょ、ちょっと陽翔、手付きがえっちぃ…、はうん」

「ほらほら、既読スルーじゃ、お母さんがやきもきするよ?」

「あ、あん、でも…、これじゃあ…、んん…」


 しかし、二人の結婚生活は長くは続かなかった。俺と美月が生まれてから2年が経ったある日、今度は大喧嘩の末、離婚してしまったのだ。喧嘩の原因はもう二人とも思い出せない程度の些細な事らしい。


「ふ〜、送信完了。もう、陽翔ったら、悪戯っ子めー」

「それを言ったら美月だって、これはオモチャじゃないんだからね?」

「オモチャになんかしてないもん、可愛がってあげただけでしょ? ほら、いい子いい子♪」

「あう…」


 その結果、俺たち兄妹は13年間生き別れになってしまったのだから、本当に勘弁してほしい。


「ふっふ〜、どう? 気持ち良いでしょ?」

「うん…、とても、良いです…、は、あ…」


 ただ、そのお陰で俺と美月が恋仲になれたのもまた事実だ。俺たちは兄妹としてだけでなく、恋人同士としても愛情を育むことが叶うのだから、これは幸運と捉えるべきだと思う。


「くっ…美月も、気持ち良くなって」

「あ…、あうん、ん、ん…」


 復縁した両親が揃って海外赴任したため、俺たちは3年間、二人きりで暮らすことになった。きっと日々の暮らしの中で、様々な形でお互いの存在を確かめ合えるだろう。


「愛してる、美月…」

「私も、愛してる、陽翔…」


『俺(私)たちは、決してお互いを離さない』


 あの日誓った言葉を胸にいだき、俺たちはこれからも歩んで行く。兄妹と恋人という二つの絆で結ばれた俺たちを分つことなど誰にも出来はしないのだから。


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