第5話 試験勉強
その夜、夕食を済ませた俺と美月は、再び試験勉強に取り組んだ。
「それじゃあ、始めるよ?」
「はーい、いつでもどうぞ」
俺たちのやり方は、同じ問題集の同じページを一定時間内に解き、問題集を交換して採点し合うという、複数人で行う際にはよく見られるものだ。
「ここまでだね。はい、美月」
「はい、こっちもお願いします」
ただし、一つだけ他では見ない特徴を上げるとすれば、お互いに問題集に付いている解答例を見ずに採点することだろう。
「採点終了! 惜しいね〜、今回は95点でした」
「こっちも採点終了。やっぱり美月は凄いね、全問正解です」
自力で採点する分、時間は掛かるけれど、こうすることでお互いすぐに見返しが出来る上、俺にとっては理解不足だった問題を美月の的確な解答付きで復習できるのだから有難い。
俺の成績はこの1年で格段に伸びた。まったく美月様々である。
「ありがとう美月、この問題の解き方がようやく理解できたよ」
「良きかな良きかな、陽翔は飲み込みが早いから教え甲斐があるよ」
「それって、琴吹と比べて?」
「あはは、あの子は別格。ホントに、どうやって
美月は途方に暮れたように天井を見上げる。
琴吹が放課後は都合が悪いと言うので、授業の合間を縫って問題を解かせたところ、結果は散々だったらしい。
そのくせ本人は至って楽観的だと言うのだから、まったく困ったものだ。
「中間試験は様子見にしようか。琴吹も結果次第で目が覚めるかもしれないし」
「うん、そうする。あの子はあの子なりに秘策があるかもしれないしね」
心にもない
ここは気持ちを切り替えた方が良さそうだ。
「美月、コーヒー淹れるけど、飲むよね」
「うん、飲む。お砂糖たっぷりでお願いします」
俺はだれ切った美月を横目に見ながらキッチンに入った。
美月お気に入りのコーヒーマグに淹れたてのコーヒーを注ぎ、リクエストに応えて砂糖を3杯入れる。普段は2杯入れているので5割り増しだ。
「お待ち遠さま、これくらいの甘さでどうかな」
「うん、バッチリ! あ〜、お砂糖が脳に染みる〜」
美月は一口飲んで頬をゆるゆるにする。砂糖が脳に染みるとは、はたしてどんな感覚なのだろうか。無糖派の俺にとっては未知の領域だ。
俺は既に頬だけでなく、全身を弛緩して椅子の背もたれに寄り掛かる美月に声を掛けた。
「今日はもう終わりにするよね。風呂の準備をして来るよ」
「え、でも、今日の当番って私…」
「俺が勝手にするだけだから、美月はそのまま休んでて」
美月の唇に人差し指を触れさせて反論を遮った。他の人に対しては決してするはずのない行為も、この子が相手なら自然と出来てしまう。
そして、そんなキザったらしい振る舞いを美月は瞳を細めて受け入れてくれるのだ。
「うん、分かった…、ありがとう、陽翔…」
美月の唇からは、心からであろう素直な言葉が漏れた。
その言葉が胸に沁み、心がじんわりと温かくなる。
俺は美月の頬を優しくひと撫でしてから、入浴の準備に取り掛かった。
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