第4話 生徒会

 入学後に迎える初めての定期試験まであと1週間。今日から俺と美月は、放課後の図書室で試験勉強に取り組む予定だった。

しかし…


「まさか、図書室を追い出されるとは思わなかった…」

「はあ〜、ホントに何でこうなっちゃうんだろう」


「噂の1年生兄妹が揃って顔を出せば、どこに行ったって騒ぎになるって。あと半月もすれば収まるから、それまでは辛抱するんだね」


 涼しい顔でそう言うのはこの部屋の主人あるじ、生徒会会長の3年生・神崎かんざき京悟きょうご先輩だった。

そしてここにはあと三人…


「そうそう、人の噂も四十九日しじゅうくにちって言うしね」

撫子なでしこ、それを言うなら、人の噂も四十五日しじゅうごにちでしょ?」

「あー、そうとも言うね」

「お二人とも違います。人の噂も七十五日しちじゅうごにちが正解ですからね?」


副会長の2年生・武光たけみつ撫子先輩と、会計の2年生・洞口ほらぐちひびき先輩、そして書記の1年生・和久田わくたひまりが集まっていた。

もうお分かりだろう。俺と美月は生徒会室に身を寄せているのだ。


「ここならわたしたち以外、誰も来ないから、良かったら今日はここを使って?」

「響ちゃん、ありがとう。陽翔も良いよね?」

「うん、もちろん。ありがとうございます、洞口先輩。生徒会の皆さんも、助かります」


 俺が礼を言いながら頭を下げると、隣に立つ美月も慌てて頭を下げた。

すると、それを見ていた洞口先輩がくすりと笑い、親しげに話しかけて来た。


「本当に天乃くんはしっかり者って感じね。良かったわね、美月ちゃん、素敵なお兄さんが出来て」

「うん、私もそう思う。もう、陽翔以外の人なんて想像できないもの」

「それは俺も同じだよ。そもそも美月でなきゃ嫌だしね」

「あらあら、二人は相思相愛なのね」


 微笑ましそうに瞳を細める洞口先輩。彼女は美月の幼馴染だった。美月は幼い頃からこの人を姉のように慕っていたのだと言う。

俺と美月がこの学園への進学を決めたのは、洞口先輩が居るからと言うのも理由の一つなのだ。

 それとは対照的に、事情を飲み込めていない武光先輩と和久田はキョトンとしている。洞口先輩と俺たちの遣り取りを聞けば、頭に疑問符が浮かぶのは当然だろう。

一方、神崎先輩は涼しい顔のままだ。多分あらかじめ洞口先輩から俺たちの事を聞いていたのだと思う。

生徒会役員の相関が、そこはかとなく見える気がした。


 俺と美月は目配せして、事情が分かっていない様子の二人に、俺たち兄妹の経緯いきさつをかいつまんで説明することにした。


「俺たち正真正銘の双子なんですけど、2歳の時に両親が離婚して、別々に育てられたんです」

「その両親が今年の3月に突然復縁しちゃって、その時初めて、自分に双子の兄妹がいるって聞かされたんです。ホントにびっくりしました」

「俺も驚きました。けど、すぐに理解できたんです。この子は俺の妹に間違いないって」

「私も、陽翔がお兄ちゃんなんだって、すぐに分かりました。もう絶対この人だって」

「だから、お互いそれまでほとんど他人だったはずなのに、今はこんな感じです」

「うん、ホントに。一緒に暮らし始めてまだ一月半だけど、全然違和感ないものね」

「そうだね。寧ろ美月が居ない時の方が違和感があるよ」

「ふふ、私も♪ 陽翔お兄ちゃん♪」

「ちょっと美月、ここ学園」


 そう言いながらも、俺は戯れ付く美月を邪険にしない。可愛い妹に甘えられて、嬉しくない兄などいるわけがない。

内心では別の感情も揺れ動いているけれど、今ここで表に出すわけにはいかないのでぐっと抑え込んだ。


 俺たちは洞口先輩からやんわりとたしなめられるまで、ただひたすらに溢れる兄妹愛を撒き散らし続けた。

ポカンとしながらこちらを眺めていた武光先輩と和久田が、俺たちの話をどこまで理解してくれたのかは分からずじまいだった。


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