第28話 反応と戒め
早めに昼休みの鍛錬を切り上げ、教室へと戻ると、クラスメイトが驚愕に満ちた視線で俺を見ていた。
「あれ?まだ昼休みの終わりまで時間あるよな?相澤帰ってきたぞ?」
「いつもなら時間ギリギリなのに...」
「なんだったら昼休み終わりの合図だと思ってたのに...」
おい誰だ俺をタイマー扱いしてんのは...
すると、俺の様子を見ていたクラスメイトの一人が、声を上げる。
「ていうか相澤、なんかおとなしくない?やっぱ紫堂さんがビシッと言ってくれたの!?」
その声を皮切りに、皆は命先輩の下へと集まり、一斉に命先輩に問いかけた。
「「「どうやって相澤を説得したの!?」」」
詰め寄られた命先輩は一瞬困惑しながらも
「説得?あぁ...そうか、そう言えばそういう目的だったな...一応、彼と話はできた。」
と答えた。
周囲から口々に命先輩への称賛の声が上がる。
「じゃあやっぱり紫堂さんが相澤をおとなしくさせたんだ!」
「さすが委員長!」
「これで、安心して授業が受けられるぜ!」
授業受けられなくレベルって...俺、どんだけ周囲を威圧してたんだ...?
「いや、別に何かした訳ではないんだが...」
命先輩は何か言いたげに俺の方を見ていたが、ここで俺が出たところで火に油を注ぐだけだろう。
大変心苦しいがここはスルーだ、一応両手を合わせて謝罪の意を示しておく。
命先輩は苦々し気な顔を見せたが、すぐに皆に向き直り、粛々と称賛の声を受け流していた。
「紫堂!やっぱ
「いや殴っていないが...」
なんか矢鱈と血気盛んな奴もいたが、探索者養成校だしね...血の気の多い奴もいるか...
そんなことを思いつつ自分の席に着こうとすると、誠也が俺を見上げていた。
口をあんぐりと開け、信じられないものを見るような目で俺を見ている。
「り...龍平!?元に戻ったのか!?」
そう言えば、鍛錬してる間も話しかけてくれていたな...狂ってたからまともには会話してなかったような気がするけど...
どこかで俺のことを止めてくれようとしていた記憶がおぼろげながらあるし、かなり心配を掛けてしまったに違いない。
「おぉ誠也。話すのは久しぶりだな。ちょっと鍛錬に夢中になっちゃっててな...周りが見えてなかった。ごめんなぁ、止めようとしてくれてたのに...」
両手を合わせて謝罪をする。
すると誠也は突然立ち上がって俺の肩を掴み、凄まじい剣幕で
「そんな...お前は刀に成ったんじゃないのか!?どうやって...どうやって戻ったんだ!?」
「は?刀?いやどうやってって...別に紫堂さんと話しただけだけど...」
「話しただけ...そんな...そんな簡単なことで...!?」
突然わけのわからない事を言い出し、頭を抱えてしまった。
俺が刀になったって何???俺自分が刀だなんて思ったこと一度もないけど???
詳しく聞いてみると誠也は一度、鍛錬に嵌まっていた俺を正気に戻すために、瞑想している所に押しかけようとしたことが有ったとか。
そこであまりに集中している俺を見て、刀になっていると思ってしまったらしい。
いや何言ってんの?
「あの時の龍平、本当にやばかったんだぞ...?威圧感て言うか、なんて言うかが...。お前は何も持ってなくて、ただ座ってるだけだったのに、俺は斬られると思ったんだ。すげぇ怖かったよ...人間とは思えなかった。あのお前を見て、俺はもう龍平は元には戻んねぇんじゃねえかって思ったんだよ。」
その時の記憶が蘇っているのか、誠也は少し青い顔をしながら首をさすっていた。
「そうか...本当にごめん。誠也も止めようとしてくれてたのに...鍛錬は程々にするよ。」
そう言って頭を下げる。
「良いよ、戻って来てくれて本当に良かった!ただ、今度またおかしくなりそうだったら絶対に俺に教えてくれよ!そん時は殴ってでも止めてやるからな!!」
俺の謝罪を、誠也は快く受け取ってくれた。
やはりいい奴...!!友達が抜き身の刀になってたら普通は縁切るぞ...!
誠也の手を煩わせないためにも、今後は狂わないようにしよう!
と、決意を新たにして席に座り、誠也と雑談しながら残りの昼休みの時間を過ごした。
「そう言えば龍平、腰まで髪伸びてるけど切らねえの?」
真っ白な長髪を弄りながら答える
「そうだなぁ...切らないでおこうかなぁ...
「戒め?」
お前はこんなになるまで気づかなかったんだよ、と言う戒めとして...
そんな会話をしつつ、午後の授業を終え、放課後になった。
命先輩が俺の机の前まで来て、手を差し伸べた。
「さぁ、行こうか相澤君。君の実力を見せてくれ。」
先輩ヒロインの同級生に転生してしまった... 狩野院 翁 @naoki0514
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