第27話 同行理由と供給

「君のダンジョン探索、私達も同行させてもらえないだろうか。」


 まっすぐ俺を見据え、みこと先輩は提案してきた。


 俺はその発言に聞き覚えがあった。


 これは...委員会勧誘イベントだ...!


「あっ...もしかして知ってるの~?噂には敏感なタイプなんだね~」


 固まってる俺を見て、まこと先輩が意外そうに目を見開いて言う。


 まずい...知らないふりして適当に撒こうと思ってたけど、真先輩が近くにいるんじゃ無理か...


「えっ...えぇ、まぁ...」


 と曖昧に返事をする。


「なんだ?もう知っていたのか?とは言え、詳しくは知らないだろうからな。私からも説明しておこう」


 そう言って、命先輩は腕を組み、語りだした。


「最近、ダンジョン内でおかしな事件が起きていてな...これに対応するため、実力ある生徒達でダンジョンの見回りを行う委員会、天涯学園迷宮異常調査委員会、略して天迷てんめいが発足されることになったんだ。まぁ...学園版の治安維持会みたいな物だ。私も参加することが決まっている。」


「は~い!私も生徒会から出向して委員長やることになってるんだ~」と、真先輩が手を挙げて言う。


 うんうんと頷き、命先輩は続ける。


「今は初期メンバー集めの最中でな、私も1年生の中から何人か推薦するように言われている。そこで、君を是非、委員会に勧誘したい。君がダンジョンでも問題なく動けることを確かめるために、ダンジョンへの同行を申し出ている、と言うわけだ。」


「なるほど...」


 命先輩の説明を聞いて確信に変わる。


 これはゲーム最序盤、ストーリーの起点となるイベントだ。


 高い魔力に加え、全ての属性に対する適性を持つ主人公の才能は、入学してすぐに天迷の耳に入り、命先輩に勧誘される。


 原作ではここで主人公が委員会に参加することで、様々なダンジョン内の事件に巻き込まれ、ヒロインたちとの交流の切っ掛けになるのだ。


 殆ど本編ストーリーに関わらない武神ルートでも、この委員会に入ることは避けられない。ちなみにこの場合は命先輩ではなく委員会のモブ先輩が勧誘をしに来る。


 ゲーム内でもかなり若い委員会だって言われてたけど...本編開始の半年前なのか....


 と思い出しつつ、「うーん...」と唸る。


 心情的には滅茶苦茶入りたい。


 主人公含め作中のメインキャラクターが所属する委員会だ。当然この委員会を舞台とした主人公とヒロインのイベントが多々ある。


 この委員会に所属することが出来れば当然、それらのイベントを近くで見ることが出来るわけだ。


 見たい


 特に主人公とヒロインたちが一堂に会して、わちゃわちゃイチャイチャ会議するシーンとか滅茶苦茶見たい。


 ただ...


 天迷は本編ストーリーにがっつり関わってくる組織だ。


 これから起こる事件を大体知っている俺がこの委員会に入ってしまって大丈夫だろうか?


 いくら本編に関わらないように振舞おうとしても、無意識のうちに影響を与えてしまうかも知れない...


 大変口惜しいが仕方が無い、断ろう。


「話は分かりましたけど...俺まだ一回もダンジョン入ってないですよ?天迷は実力ある人が呼ばれるんですよね?流石になんの実績もない俺が入るのはおかしいんじゃないですか?お誘いは嬉しいんですけど今回は...」


 と断ろうとすると、命先輩は


「何か悩んでいると思ったら....そんなことか」と言って続ける。


「それなら問題ない。必要なのは実績ではなく、実力だ。例え到達階数が低くとも、能力に秀でていれば勧誘しても良いと、委員長姉さんから言われている。それに...」


 命先輩は俺の右肩をがっしりと掴み、俺の目をまっすぐ見て、期待に満ちた声で言う


「これからダンジョンに行くんだろう?私達は確信している。君が、素晴らしい実績を打ち立ててくれることを!」


「ゔっ!!」


 推しからの言葉供給に心臓が耐えられず、膝から崩れ落ちてしまう。


 まさかこんなに期待されているとは...狂った甲斐もあるというものだ!


「相澤君!?大丈夫か!?」


 心配する命先輩の声を聴きつつ、何とか立ち上がる。


「は...ハイ...大丈夫です...ちょっとありがたすぎて...」


「うん?」


 疑問符を浮かべる命先輩の代わりに、真先輩が答えを促す。


「嬉しそうだね~相澤く~ん。それで、どうかな?ダンジョン探索、私たちも着いて行っていい?」


 最早本編への影響など頭から吹き飛んでいた。


 推しにここまで期待されているんだ、応えられずに何がオタクか!!


 俺はすぐさま立ち上がり、元気よく返事をした。


「ハイ!!是非に!ご期待に添えるよう、精一杯頑張ります!!」


 俺の答えを聞いた命先輩は、嬉しそうな笑みを見せて言う


「おぉ...そうか!ありがとう!では今日の放課後、教室で待っていてくれ、一緒にダンジョンに行こう!姉さんは放課後、1-2まで来てくれ!」


「オッケ~、じゃあ相澤君、また放課後に~」


 そう言って、2人は去っていった。


 2人を見送った俺は、シミュレーションルームで鍛錬を再開した。


 後の閃が完成した上、推しとダンジョンに行けるとは...今日はなんて良い日なんだろう...!


 上機嫌でゴブリンを斬り続けた。


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 大変お待たせいたしました。

 リアルがあまりに忙しかったので書けないうちに10日も経ってしまいました。

 申し訳ありません

 また、前回の最後に「次回はダンジョン」と言っていましたが、実際にダンジョンに行くまでもう2話ほどかかります。

 訂正してお詫び申し上げます。

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