第23話 噂の鍛錬狂い②(紫堂 命視点)

「「鍛錬狂い」って噂されてるの、命のクラスの子でしょ?」


「鍛錬狂い...」


 それは、6月頃から流れ始めた、とある噂。


 平日休日問わず、いつ行っても必ず1つは、シミュレーションルームが埋まっていることから、この噂が流れ始めた。


 曰く、早朝から放課後遅くまで、空き時間をすべて鍛錬場に籠もって過ごし、只管トレーニングをしている生徒がいる。


 その生徒を見てしまった者は、「鍛錬狂い」の狂気に当てられ、金縛りにあってしまうんだとか...


 けど、時期によって短い黒髪の少年だったり、長い白髪の少女だったりと、鍛錬狂いの容姿が目撃者によってバラバラであることから、ただの怪談ではないか?と言う声も多い。


「ただのよくある怪談だと思っていたんだが...生徒会姉さんが出てくるってことは、本当に存在していると?」


 私の問いに、姉さんは乾いた笑いを交えて言う。


「ま~普通はそうだよね~。そもそも鍛錬場って入学したての1年生とか、新しいエリアに挑戦する人が、ダンジョンに入る前の予習に使う施設だし、この時期になるともう全然使わなくなるしね~」


 一拍おいて、姉さんは続ける。


「けどね、いるんだよ、鍛錬狂いは。入学したのに一度もダンジョンに入らないで、ず~っとトレーニングしてる生徒が、居るんだよ。」


 姉さんの真剣な様子から、嘘ではないと分かった。


「しかし...本当にそんな生徒がいるとして、どうして生徒会が出張って来るんだ?姉さんも言ってたけど、鍛錬場はそこまで人気な施設じゃない。常に誰かが一室使ってた所で特に問題は無いだろう?」


 真剣な表情を崩さず、姉さんは答える。


「6月頃からかな、「早朝に禅堂を占拠してる生徒がいる、先生も取り合ってくれない」って苦情が、生徒会に何回も来たの。そのたびに許可を取って、監視カメラの映像を確認したんだけど、真面目に瞑想をしてる男子生徒が一人いるだけ。これを流石に注意することはできないから、生徒会も動かなかった。けど、おかしな所もあった。」


「おかしな所?」


「そう、その部屋に入ろうとした人は皆、その生徒を見た瞬間、逃げてしまうの。しかも、その禅堂に居座ってる生徒の様子もおかしかった...日を追うごとに、どんどん髪が白くなっていったの。」


 姉さんは続ける


「それから禅堂以外でも、鍛錬場中で同じような苦情が相次いで来たの。監視カメラを見ても同じ、白髪の生徒が一人で真面目に鍛錬してるだけ。先生が取り合ってくれないのも当然だよね、ダンジョンに行かずにずっと鍛錬場に籠もってるのは変だけど、その子は鍛錬してるだけで、他の子が勝手に怖がってるだけなんだからさ。」


「じゃあ鍛錬狂いは...」


「うん、その子で間違いないと思う。鍛錬場を日常的に使ってた、ほんの一部の生徒が、鍛錬狂いその子に怯えて誰かに話したんだろうね。時期によって目撃者の話がバラバラなのは、その子がだんだん白髪になっていったからかな?」


 ここまで言われてようやく、鍛錬狂いが誰であるのか理解した。


 なぜ気付かなかったのだろうか、私が知る中で、黒髪から白髪へと変化した人間は一人しかいない。


 相澤君だ


 ようやく鍛錬狂いの正体に気づいた私に「相変わらず鈍いね~」と姉さんは笑う。


 姉さんは普段の柔らかな雰囲気に戻り、目的を話した。


「生徒会としては、どうして他の生徒たちが彼に怯えるのか、直接会って聞いてみようってことになってね~調べたら命のクラスの子だったから話も聞けるし丁度良いか~ってなって私が行くことになったんだ~」


「そうだったのか...すまない姉さん。私も彼のことはよく知らないんだ。彼はいつも、空き時間は鍛錬場にいるみたいだから話す機会も無くてな...仲の良かった友人もいたようだけど、最近は全然話していないみたいだし...」


「う~ん...やっぱりそうか~じゃあ実際に会って話すまでは何もわからなそうだね~ほら、着いたよ。」


 話していると、いつの間にか鍛錬場へたどり着いていた。


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結局長くなったので二話に分けます。

申し訳ありません。

なので今日はもう一話上げてます。

11/17日 命先輩の口調を修正しています

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