第16話 友達の狂気(伊藤 誠也視点)
面白そうなやつだ と思った。
入学初日から、魔法を使って中庭の巨木に激突したそいつの名前は、相澤 龍平。
小学校の頃にも魔法を使える奴は何人かいたけど、そいつらはいつも威張っていて、魔法で皆をいじめていた。
けど、龍平はなんだかあいつらとは違う気がして、声をかけてみた。
「おっ?キミあれだろ?さっき校庭で凄い勢いで転がって木にぶつかってた奴だろ?凄い音してたぜ?大丈夫だったか?」
「うん、大丈夫だったよ。心配してくれてありがとう。ごめんねぇ驚かせちゃって。遅刻しそうになったから急いでてねぇ。」
変な喋り方をする奴だった。
聞けば、相当なおばあちゃん子だったらしい。そのあとすぐに話し方を戻していた。
「そうだなぁ、身体強化使って走ってたよ。けど、まだまだ使いこなせなくてね、うっかり暴走させてあの様ってわけ。」
話してみると、龍平は、意外と謙虚で真面目な奴だった。
龍平もあいつらみたいな嫌な奴だったらどうしようかと思っていたけど、いらない心配だったな。
入学式が終わった後は、皆で自己紹介をした。
龍平は死なない程度に強くなると言っていたけど、あんなにすごい魔法を使えるんだから、もっと高い目標にすればいいのに...
やっぱり謙虚な奴なんだな と思った。
入試1位の紫堂さんの自己紹介の時はやけに耳を澄ませて集中してたが、どうしたんだろう。
いや、実力のある紫堂さんの言葉を糧にして、もっと強くなろうとしているんだ。なるほど、謙虚に見えてしっかり上を目指してるんだな!
自己紹介も終わり、放課後になった。
俺は龍平を誘って他のクラスメイトとダンジョンの下見に行こうと思ったが、龍平はトレーニングをするらしい。
ダンジョンに入る前になるべく準備をしたいんだな。やっぱり真面目でストイックな奴だ。
次の日、龍平はとても疲れた顔をしていた。
なんでも朝から鍛錬をしてきたのだとか。
入学して間もないのにハードなトレーニングをしているとは、流石だな!
けど、明らかなオーバーワークに見えたから、無理はしないよう忠告した。
龍平は「ありがとう」と言いつつも、また鍛錬に向かった。
それから、龍平はどんどんおかしくなっていった。
1週間経った時は、とても眠そうだった。
朝から放課後までずっと目がピクピクしていた。
ちょっと面白い顔だったけど、心配だ。
本当に無理をしないよう、もう一度注意した。
龍平は眠そうに「
3週間ほどたった時は、明らかに様子が変だった。
元気ではあったけど、隈だらけの目が常にカッと開いていて、ボロボロなのにずっとニコニコしていて、少し不気味だった。
この時は俺だけでなく、他のクラスメイトも心配して声をかけていた。
龍平は「俺は元気!大丈夫!」と言って鍛錬に向かった。
そろそろ本気で止めないといけないかもしれない...
2か月経った時は、まるで別人のようになっていた。
過酷なトレーニングのせいで、髪が真っ白になっていた、心配なんてものじゃない。
一月前の元気な様子はなりを潜め、とても静かになっていた。
背筋がピンと伸び、微動だにせず授業を聞いている。
正気を取り戻したのかと思ったけど、違った。
本当に、1ミリも動いていない。
普通なら、呼吸とか身じろぎで、少しは体が動くはずだ。
だけど、今の龍平にはそれがない。
まるで、置物のようにそこにいる。休み時間になっても微動だにせず、放課後になると、スッと立ってどこかへ行ってしまった。
龍平の異様な雰囲気に、俺も含めて誰も声をかけることが出来なかった。
この頃から、「鍛錬狂い」の噂が流れ始めた。
4か月が経ち、夏休みが明けると、異様な雰囲気がさらに増していた。
常にぶつぶつと、「遅い」とか「早い」とか言っている。
頭の中で、ずっと何かを斬っているみたいだ。
声をかけても、何の反応もない。
まっすぐ前を見ながら、ぶつぶつと呟いている。
龍平は壊れてしまった。
俺はなんでこんなになるまで放っておいたんだ!
もっと前から本気で止めておけば、こんなことにはならなかったかもしれないのに!
けど、後悔しても仕方が無い。まずはあいつを止めなくちゃ!
昼休み、鍛錬場へ向かおうとする龍平の前に立ち、肩を掴んで揺らす。
「おい、龍平!ちょっと休め!死なない程度でいいんだろ!?そんなに自分を追い込む必要ねぇって!こんなになってまで強くならなきゃいけない理由があるんなら話してくれ!協力するから!友達だろ!」
いったい何が龍平をここまで狂わせたのか、俺は知りたかった。
金が要るのか、それとも力をつけて復讐したい相手でもいるのか、何でもいい。知って、助けてやりたいと思った。
けど、龍平から帰ってきたのは、そもそも答えではなかった。
「....でも、鍛錬を....しなきゃいけないから....」
そう言って、揺らされた龍平はゆらりと態勢を戻し、じっとこちらを見つめてきた。
龍平の目には確かに、俺が映っているけど、俺を見ていなかった。
ただ、目の前にある「物」として、俺を見ていた。
その目を見て、俺は立ち竦む。
龍平の真っ暗な目には、全く生気を感じられなかった。
濁っている、とかではない。
その目は、どこまでも澄んでいて、この世の物とは思えないほど真っ黒だった。
「あ..っ..あぁ...」
人ではない、別の恐ろしい何かにじっと見られているような感じがして、俺はその場から動けなくなった。
龍平は、不思議そうな顔をして去っていった...。
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長くなったのでもう1話も誠也視点です
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