第14話 鍛錬初日とスケジュール

 その日から、地獄の鍛錬が始まった。


 まずは施設が閉まるギリギリまで、シミュレーション。


 ゴブリン相手に、ひたすら後の閃のタイミングを探る。


 遅い 遅い 遅い 少し早い 少し早い 早い 少し遅い 早い 遅い 遅い 早い少し早い 遅い 遅い 遅い 早い 少し早い 早い 少し早い 遅い 早い 遅い 


 夕方6時、シミュレーションを終え、担任の先生から鍛錬場の早朝使用の許可をもらう。


 寮に戻ってからも、探索者の動画を参考にして、庭で素振りを行う。


 一夜明け、朝5時起床。少ししんどいがそこは中学生体力で頑張る。


 まずは素振り30分。すぐに鍛錬場へと向かい、シミュレーションルームとは別の部屋へ向かう。


 そこはとてつもなく広い空間に、ジャングル、山、洞窟、水辺、溶岩地帯など、ダンジョン内の様々な地形を模した、アスレチックコースだった。


 主にダンジョン内での動き方を学ぶための施設らしい。


 こんな朝早くにも関わらず、どのエリアも煌々と明かりがついている。


「金かかってんなぁ...」


 と呟き、準備運動を始める。


 ここに来たのは、身体強化の制御を行うためだ。


 昨日、後の閃を練習してみて感じたが、ゴブリン相手ならまだしも、素早いモンスター相手では、おそらく身体強化無しでは攻撃が間に合わない。


 しかし、俺はまだ身体強化状態で思ったように動くことはできない。と言うかそもそも、ゲームのように軽やかな体捌きが出来ない。


 ここで体の使い方を学び、身体強化の制御もできるようになろう。と言うわけだ。


「まずは身体強化をかけずに一周、何分かかるかな...。」


 準備運動を終え、走り出す。


 蔦や、泥濘、暗い道などに注意を払いつつ、なるべくスピードを落とさないように走る。


 足場が悪いだけでなくランダムに落とし穴や、丸太が飛んでくるので、それらを避ける。


「分かっちゃいたが、やっぱちょっとドタバタ走ってる感じがあるな...。」


 前世ではあんまり運動しない方だったからか、やはり、走るフォームやジャンプなど、体の動きがぎこちない。


 30分ほど走って、ようやくゴールすることが出来た。


 休憩を挟み、今度は身体強化を使って走ってみる。


「ポンプの出力を、弱めるイメージで...」


 暴走させる事ががないように、魔力を抑えて身体強化を掛ける。


 前回よりも薄くなったオーラを纏い、走り出す。


 それでも尚、速くなった体に脳が追い付かなかった。


 つたに引っかかって転び、泥濘に足を突っ込んで転び、暗闇に惑わされて壁に激突し、ブレーキが出来ずに落とし穴に落ち、進路変更できずに丸太に顔面をぶつけた。


 一週目よりもボロボロになりながら、ゴール。


 タイムは35分、散々だ。


 鍛錬場内のシャワーで汗を流し、また別の部屋へ向かう。


 向かったのは禅堂と呼ばれる部屋だ。文字通り座禅を行うための部屋で、木で組まれたシンプルな内装に、美しい木目の板張りの床が敷かれている。


 この時間になると朝の鍛錬をしている生徒も居るようだ。既に何人かが、静かな空気の中、座禅をしている。


 バイブレーションタイマーをセットした後、彼らに倣い、半跏跋座はんかふざを組み、呼吸を整える。


 後の閃のタイミングが早くなるのはひとえに恐怖のためだ。殴られる恐怖が体を強張らせ、心を逸らせてしまう。


 ただ適切なタイミングで、適切に体を動かして斬る。ただそれだけを考えられるようにする。


 それを実現するため、座禅で精神力と集中力を鍛える。


 頭の中で、ゴブリンとひたすら戦う。


 心を無にし、理想のタイミング、理想の動きでゴブリンを斬る。


 いや待て...これホントに理想か?もうちょい早くてもいいんじゃないか?いやそれはビビってるんじゃないか?て言うか腹減ってきたな。あと何分でタイマー起動するんだ?いや足痛った!?


 雑念だらけである...。先は長いな...


 ため息を誤魔化すように、細く長い息を吐く。


 50分ほど雑念と戦ったところで、ようやくタイマーが起動する。


 あまり良くない意味での解放感に包まれながら、禅堂を後にする。


 時刻は8時、寮に戻って朝食と支度を済ませ、登校する。


 眠気に耐えつつ授業を受け、ダンジョン探索の知識と、効率的な体の動かし方を学ぶ。


 誠也とその他何人かで昼食を摂り、すぐに鍛錬場へと向かう。


 誠也から「無理すんなよー」と声がかかる。


 やはり誠也は良い奴である。手を振ることで返事とし、シミュレーションルームへと急ぐ。


 昼休みの残り時間、ゴブリン相手に後の閃を放っては、自分のフォームとゴブリンの反応を見返す。


 遅い 遅い 早い 早い 遅い 少し遅い 早い 遅い 遅い 早い


 午後の授業を終え、放課後になると、一目散にシミュレーションを行う。


 遅い 遅い 遅い 少し早い 少し早い 早い 少し遅い 早い 遅い 遅い 早い 少し早い 遅い 少し早い 早い 遅い 早い



 そうしてまた、施設が閉じるギリギリまで、後の閃を練習していた。


 夜は素振りと今日の成果を(ほぼないけれど)思い出し、就寝。


 「正直しんどいけど...本編開始後のヒロインたちを眺めるためだ。」


 こうして俺は厳しいスケジュールで、日々を過ごしていった。



#---------------------------------------------

龍平がシミュレーションを終える時間を夜8時→夕方6時としました。

流石に夜8時まで先生がいるのはブラック過ぎました。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る