第12話 シミュレーションと「後の閃」
「完璧だな...」
と、独り
鍛錬場、もといシミュレーションルームは生徒たちの戦闘技術を向上させるため、ホログラムのモンスターと戦うことが出来る施設だ。
「天虹」のゲームシステムに沿って言うならば、ここでスキルレベルを上げることが出来る。
「天虹」において、主人公を強くするには、大きく分けて2つの要素がある。
1つ目はステータス。これは魔力や身体能力など、基礎スペックに関するものだ。レベルを上げることで、攻撃力や体力、魔力量などのステータスを上げることが出来る。主にダンジョンでモンスターを倒すことで上げる。
2つ目はスキルレベル。これは魔法や武器の練度に関わるレベルだ。スキルや魔法ごとに個別で設定され、レベルを上げることでスキルの火力を上げたり、スキルクールタイム、魔法の詠唱時間の短縮が出来る。これは鍛錬場で修行を行うことで上げることが出来る。
どちらも、学校行事やヒロインとのイベントをこなすことで上げることもできるが...
ステータスとレベルを上げるだけならば鍛錬場とダンジョンに通った方が効率が良い。
なので武神ルートでは基本的に鍛錬場とダンジョンに引き籠もり、ステータス上げに勤しむのだ。
次にダンジョンではなく修練場に来た理由だが、それはRTAのチャートに関係する。
チャートとは、RTAにおいて、効率的に動くための行動手順のことである。
「天虹」のRTAチャートでは、まず半年ほど訓練場に籠もり、あるスキルのレベルをMAXまで上げる。
スキル上げが終わったら強力になったスキルでダンジョンを攻略、ステータスを上げていく。
と言うのが大まかなチャートである。
故に俺はチャートに従い、スキルレベルを上げるために修練場まで来たのだ。
鍛錬場に着いた俺は素早くシミュレーションルームに向かい、慣れない機械に四苦八苦しながらも、チャート通りにシミュレーションの設定を行う。
シミュレーション対象はゴブリン1匹...使用武器は刀...そこで俺はあることに気づく。
「あれ?練習項目がない?」
そう、ゲームでは、鍛えるスキルを設定した上でシミュレーションを行うのだが...この機械ではできない。
ただホログラムのモンスターと戦えるだけで、特別なことがあるわけではない。
もしかしたら、そもそもこの世界にはスキルと言う概念は無いのか?
思い返してみると、ゲームの登場人物たちが「スキル」と言う単語を発したことは無かった気がする。
あくまでゲームのシステム上スキルと呼ばれていただけで、実際は各々自力で身に着けた技術のことなのか...?
つまり、スキル習得に決まった道のりは無く、ただひたすらに鍛錬を行うしかないのか?
強くなるための道筋が突然不透明になってしまい、俺は思わずため息をつく。
な~にが完璧だよいきなり躓いてんじゃねぇか!
「参ったな...まぁでも取り合えず、シミュレーションをしてみるか。」
シミュレーションルームに入ると、無機質なアナウンスが流れる。
「中等部1年2組、出席番号1番、相澤龍平、戦闘シミュレーションを開始します。対象:ゴブリン1体、使用武器:刀、制限時間:無し。」
アナウンスと共に、ホログラムのゴブリンが現れる。
緑色の肌、小さな体に不釣り合いに大きな頭、とがった大きな耳と鼻、そして醜悪な顔をもつ化け物だ。
おぉ...ホログラムと分かっているとはいえ、まるで本物のような迫力だ。本物知らんけど...。
ゴブリンはこちらを認識すると、「ゲギャアァッ」と叫び声を上げ、こちらへ走ってくる。
まぁ...まずはゲームで見た通りにやってみるか。
俺は迎え撃つために、左手で鞘を抑え、右手でギュッと柄を握り、居合の構えを取る。
鍛えようと思っていたスキルは、剣術基礎スキル、「
モンスターの攻撃に対し、タイミングよく自分の攻撃を合わせると、モンスターの攻撃を無効化した上でダメージを与えることが出来る。スキルレベルが上がれば、カウンターの威力が向上し、ステータスが低くても序盤のモンスターなら一撃で屠れる火力を得ることが出来る。
故にRTAでは真っ先にこのスキルを強化する。
まさしく無敵の強力な技である...が、タイミングが非常にシビアなのでミスるとモンスターの攻撃が直撃する。
そんなピーキーな技でも、RTA走者たちは完璧なタイミングで「後の閃」を発動させ、モンスター相手に無双していた。
そんなわけで、俺も「後の閃」を習得しようと言うわけなのだが...
「やり方が分からん...」
そう、どうやって「後の閃」を発動させれば良いか分からない。
失念していた...ゲームではボタンを押せば勝手に発動したが、現実では自分の身体を動かさないといけない。
自分なりに考えてみるか...
「後の閃」を現実的に解釈するなら、相手が攻撃モーションに入った瞬間に、こちらも抜刀、相手の攻撃が当たる前にこちらの刀が当たれば成功。と言うことになるだろうか....
ゲギャアァッアアアア!!
そうこう考えているうちにゴブリンがこちらへ飛びかかってきた。
これはもう攻撃モーションに入っていると言っていいのか?じゃあもう抜くか!?
一歩踏み込み、抜刀
上から弧を描くように力強く刀を振る。
抜刀した瞬間、ゴブリンは目を見開く、どうやら自分の運命に気づいたようだ。
容赦なく刀を振り下ろす。
ググッ スバン!!!
肉の筋に引っかかったような気持ちの悪い感覚と共に、ゴブリンは縦に真っ二つになった。ゴブリンの体はテレビの砂嵐のようにぶれ、やがて消滅する。
「ゴブリン討伐完了、同じ内容でシミュレーションを開始しますか?」
再びアナウンスが流れた。
これで...成功なのか?
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