第7話 謝罪と衝撃の情報
「そう、じゃああなたは本当にただの新入生なのね...。」
「はい...。」
栗沢先生はようやく俺が新入生だと納得してくれたようだ。
俺は続けて言う。
「じゃあ、もう教室に向かってもいいですか?怪我もないですし。」
時計を見ると9時15分。集合時刻を15分過ぎているが、まぁ許される範囲の遅刻だろう。入学初日だしね。
すると先生はその小さな体をさらに縮め、少し落ち込んだ様子で答える。
「ええ、もう大丈夫よ。ごめんなさい。あなたを上級生だと勘違いして、厳しく叱ってしまったわ...。あなたも新入生だもの...入学式は大事よね。本当にごめんなさい。あんなこと言って...。」
なぜそんなに落ち込んでいるのかと思ったが、そういう事か。そういえば、保健室に連れられるときに、「入学式に遅れるだけだから大したことない。」とか言ってたな...あれは俺が上級生だと思ってたから出た言葉なのか。
そもそも俺が遅刻しかけた上、魔法を使った挙句暴走したことが原因なのだ。先生が気にする必要はない。フォローしなければ。
「いや、謝るのはこちらの方です。まだ魔法の使い方を習ってもないのに、
そう言って頭を下げる。先生は驚いた様子で俺の話を聞いていた。
「あなた...本当に中学生?大人が謝ってるみたいよ?中学生が叱られたら、もうちょっと不服そうにすると思うんだけど。」
「いえ、悪いのはこちらの方なので。」
「それが中学生らしくないって言ってるのよ?親戚の方に随分と厳しく育てられたのね?フフフッ」
と言って先生は笑う。良かった、何とかフォローできたようだ。
俺と先生は、それぞれ教室に向かうために立ち上がる。先生はまだ笑ったままだ。そんなに可笑しかったかな?中学生としてはちょっと不自然だっただろうか。
ひとしきり笑った後、先生は俺の方を向き直って言う。
「迷惑だなんて思ってないわ、先生だもの。生徒が危ない目にあってたら助けるのは当然でしょ?」
おぉ...やはり栗沢先生は最高の先生だ...!常に生徒を思って俺たちを守ろうとしてくれる...!
感動する俺を後目に、先生は「それに...」と言って続ける。
「担任のことなら心配ないわ。私、今年はどのクラスの担任にもなっていないの。魔法学の授業しかしないわ。」
「へ???」
「それじゃあね」と言って先生は去っていった。
俺は固まってしまう。それだけ先生の言葉は衝撃的だった。薄々違和感は感じていたがこれだけは絶対におかしい。
栗沢先生は主人公のクラスの担任のはずだ。
俺は困惑しながらも平静を装い、教室へと向かう。
どうやらこの世界は「天虹」の世界と同じシステムだが、シナリオが致命的に違うようだ。
栗沢先生が担任でないことによるシナリオへの影響は正直なところ分からない。
先生はシナリオ上特別な役割を持っているわけでは無いが、落ち込んだ主人公を慰めたり、何かと自分を犠牲にしがちな主人公を叱ったりするなど、主人公を精神的に支える描写はあった。
それは、主人公が栗沢先生のクラスの生徒であり、主人公周りに起こる問題を先生が把握している、と言う前提で成り立つ描写だ。
その前提が成り立たなければ、先生の支えの無い主人公は行動が変わり、シナリオに大きな影響を及ぼすかもしれない。
それが分かった所で俺がどうこうできるわけでは無いが、シナリオが崩壊してしまう可能性があることは、心に留めておく必要がある。
「シナリオが崩壊してしまった時に、自分を守れるだけの力は持っておいた方がよさそうだな...。」
誰もいない廊下を歩きながら、俺は小さく呟いた。
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