第4話 保健室と違和感
「だっ...大丈夫!?」
栗沢先生が、真っ青な顔でこちらへ走り寄ってきた。
「怪我はない!?どこか痛いところとかはある!?」
かなり心配させてしまった。申し訳なく思いながらも俺はよろよろと立ち上がり、服についた汚れを払いながら謝る。
「怪我は大丈夫です。すみません、遅刻寸前だったので急いでたんです。」
そういって俺は学園の入り口に向かおうとする。すると先生がいきなり俺の手首を掴む。
「もしかしたら気づいてないだけで怪我してるかもしれないわ、とりあえず保健室に行くわよ!!」
そう言って先生は俺を引っ張っていく。まずい、このまま保険室に連行されると遅刻してしまう。
前世で一度、会社に遅刻してしまったとき、上司から非常にネチネチと怒られた時の面倒くささを思い出してしまう。
俺は何とか抵抗しようとする。しかし先ほどの過度な身体強化の影響か、上手く体に力が入らない。なすがまま連れられてしまう。
「いやホントに怪我はないんですって!大丈夫ですよ!それより教室に行かせてください!遅刻してしまう!あのハゲに怒られてしまう!」
嫌だー、マジで遅刻したくねー、あのクソハゲ上司に何時間も説教されるのはめんどいー、そのくせあいつ自身は重役出勤で昼から出勤してくるから尚更腹立つー!
いや遅刻するのは俺が悪いんだけどさ...。
嫌なことを思い出しながら抵抗を続けていると、先生は真っ赤な顔で俺を叱る。
「あんなに強く打ち付けて怪我がないわけないでしょう!!それにまだ誰が担任かわからないでしょ!勝手にハゲって決めつけないの!あと、今日は遅刻したとこでせいぜい入学式に遅れるくらいなんだからいいでしょう!!おとなしくついてきなさい!!」
「うっ...。」
そう言われると言い返せない。確かに心が35歳の俺にとって、入学式はそこまで重要なイベントではない。遅刻する面倒くささを嫌っただけだ。先生の言う通りなら入学式に遅刻した程度で大きなペナルティは無いのだろう。クラスメイトには、「初日から遅刻した奴」と思われるかもしれないが、まぁ初日の印象なんて3日後には忘れてるしな!
だったらおとなしく保健室に行くか,,,。
そう思い抵抗をやめ、おとなしく先生に連れていかれる。
校内に入り少し歩き、保健室へと連れてこられた。
クリーム色の広い部屋の中に、多くのベッドが置かれている。ダンジョンで怪我をする生徒も多いためか、普通の学校の保健室より設備もはるかに充実している。
俺の手首を掴んだまま、栗沢先生は部屋を見渡す。
「養護教諭の先生は...いないわね。しょうがない、私が手当するわ。近くのベッドで座って怪我の確認をしててちょうだい。」
そう言って先生はパタパタと走り、部屋の奥へ消えていった。小動物らしくて大変可愛らしい。
俺は言われた通り、近くのベッドに腰掛け、腕や足にけががないか確認する。背中を強く打ったが、自分では確認できない。まぁ痛みはないし大丈夫か。
良し、特に問題はなさそうだ。すごいな身体強化は...かなりの勢いで転んだが傷一つない。あと何気にこの制服もすごい、あの転倒と衝撃でほつれ一つない。
そう言えばこの制服についてもゲーム内で説明があったな、日々ダンジョンで戦闘を行う学園生を守るため、耐衝撃、耐魔力に優れた特殊な素材を使っていて、下手な探索者の防具よりも性能がいいんだとか。
まさかこんな形でこの服の性能を思い知るとは...。
しかし、そうなると少し変だ。栗沢先生は確か、ゲーム開始時点でこの学園に配属になって2年目だったはずだ。主人公の担任として、入学式の日に主人公のクラスの前で自己紹介をしていた時、
「私はこの学園にきて2年目ですが、まだまだ皆さんと同じ新人なので、仲良くしてくださいね!」
と、そんな感じのセリフを言っていた気がする。
先ほどの転倒で俺に怪我がなかったのは、身体強化によるものもあるが、この制服による恩恵も大きいだろう。別に保健室に来るまでもないように思える。
この学園に1年在籍していていたら制服の性能も知っているはず。だというのに、栗沢先生はまるで俺が大けがでもしたかのような反応を見せた。制服の性能を知っていたらあんなに取り乱すこともないと思うんだが...。
俺の記憶違いで、実は栗沢先生は1年目だったりするのだろうか、まぁ確かに2年目だったら「皆さんと同じ」とはあんまり言わないかもしれないしなぁ。
少し違和感を覚えつつも怪我の確認を終えると、栗沢先生が戻ってきた。急いで戻ってきたのだろうか、少し息が切れている。その手には小瓶が握られていた。
「お待たせぇ~、ポーションの入ってる棚を探すのに手間取っちゃった。」
先生が持っている小瓶には緑色の液体が詰められていた。
おぉ、あれはポーション!!このゲームにおける回復アイテムだ。傷口に塗るだけで負傷者の治癒力を高め、すぐに傷を癒してくれる。ファンタジーものの定番だがやっぱり実際に目にするとテンションあがるなぁ。
けど...
「わざわざすみません...。けど本当に怪我はないんです。」
俺はそう言って腕や足を見せる。
「本当だ...。でもあなた背中を木に打ち付けてたじゃない!背中にけがはないの!?」
先生は未だに心配しているようだ。別に背中も怪我はないと思うんだけどなぁ。
「そうはいっても...。背中の方は自分では確認できませんし...そうだ、鏡か何かありませんでしたか?確認してきますよ。」
「うーん...鏡ねぇ、あったかしら。いえ、鏡を探すより私が確認する方が速いわ。ほら、上着脱いで背中を見せなさい。」
「えぇ...」
ちょっと恥ずかしいが...栗沢先生は心から生徒を思って行動する人だ、断ってもしつこく食い下がるだろう。仕方がない。
俺は上着を脱いで背中を見せる。背を向けているので詳しくはわからないが、栗沢先生は注意深く俺の背中を見ていることだろう。やっぱり少し恥ずかしい...。
「まさか本当に怪我がないなんて...。それに結構鍛えられえてる...。あっ、ごめんなさいもういいわ。上着を着てちょうだい。」
結構長く背中を見られた後、ようやく怪我の確認が終わったようだ。何か変なことを言われた気もするが...まぁ気のせいだろう。
怪我の確認が済むと、先生は「それじゃあ...」と言って座っている俺を見下ろし。両手を腰に当て、「怒ってます!!」よ言うポーズをとる。
「貴方ねぇ...いくら急いでるからってあんなに強力な身体強化なんて使わなくってもいいでしょう!身体強化も出力を誤れば制御できなくなる。上級生なら知ってるでしょう!?誰かにぶつかりでもしたら大けがするわよ!現に私にぶつかりそうになったじゃない!」
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