第2話 遅刻の危機と初魔法

 これは噂のモブ転生と言う奴だろうか...


 まぁ今そんなことを考えていても埒が明かない。今やるべきは天涯学園の生徒として、何をすべきか考えることだ。机の冊子には「入学者の皆様へ」と書いてあるから、俺は新入生なんだろう。


「ってことは俺、いま中学1年か...」


 天涯の虹は学園が舞台のゲームにしては珍しく、中学時代から物語が始まる。


 中学生編でヒロインたちと出会い、学校行事やダンジョン攻略を通して友情を深め、高校生編ではそれらに加え、ダンジョンにまつわる巨大な悪と対峙することで、ヒロインたちとの愛を深めていく、と言った大筋で物語が進行していくわけだ。


 ヒロインたちから主人公への感情が友情から恋に変わっていく、あの感じが最高なんだよなぁ...。


 思考がそれてしまった。天涯学園は中高一貫の学園で、「入学」と言えば中等部に入学することを指す。ちなみに高等部に行く際は「進学」と呼ばれる。


 俺は「入学」するので、これから中学1年生になるわけだ。


 ヒロインたちを思い出してニヤニヤしながら、冊子をペラペラとめくり、内容をざっと見ていく。


 ふーん...。入学式は4月8日の10時からねぇ...。で、学園生は9時に教室集合なわけかぁ...。ん?今は何月何日の何時なんだ?


 嫌な予感がしつつも、俺は机に置いてあるデジタル時計に目をやる。そこには今の日付と時刻がしっかりと映されていた。


 4月8日 8時45分


 どうやら部屋の探索をしている暇などなかったようだ。


 まずい急げ!!入学初日から遅刻とかシャレにならん!


 前世で10年以上、社会に揉まれたが故に形成され社会人根性が、俺を突き動かす。


 慣れない間取りと、全く分からない洗面用具の場所に手間取りながらも、何とか身支度を済ませて、寮を飛び出す。手元の腕時計を見ると8時57分。もう集合時刻ギリギリだ、他の生徒はもうみんな登校したのだろう、周りには誰もいない。


 あと3分で教室にたどり着かなければならない。学園案内図を見ると校舎まで結構距離がある。走って5分ぐらいか?それでは間に合わない...。どうする!?


 走り出しながらも悩んでいるとハッと気が付く。そうだ!ここは「天虹」の世界!だったら俺も使えるはずだ!「身体強化」が!


「天涯の虹」のキャラクター達は各々得意な武器と魔法を駆使して、ダンジョンの魔物たちと戦闘を繰り広げる。


 そのうちの「魔法」、中でも最もポピュラーなものが「身体強化」だ。体に魔力を流すことで自らの身体能力を大幅に向上させる。どんな探索者でも最初に覚える、ダンジョン探索に欠かせない魔法だ。


 確かゲーム中のテキストでは、自分の魔力の源を意識し、そこから心臓が全身に血液を送るように、魔力を体に流す。とか書いてあった気がするが...。


 前世も含めて、生まれてから一度も魔力なんてものは感じたことはない。


 が...ダメで元々、できなければ遅刻するだけだ。やるしかあるまい。


 立ち止まり、胸に手を当てながら目を閉じる。すると心臓の近くに、何か大きく、暖かなものを感じた。これが魔力の源だろうか。


 それを巨大な心臓、ポンプとし、体中に魔力を行き渡らせるイメージをする。


 ドクン ドクンと鼓動するように"源"から魔力が湧き出で、血液のように体をめぐる。


 目を開いてみると、体に白色のオーラのようなものをまとっていることに気が付く。


 良し、成功だ!すげー!ほんとに使えるんだ!力が湧き出てくる!


 魔法が使えたこと、本当にここが「天虹」の世界であることを実感してテンションが上がる。


 その場で屈伸と足踏みを行い、ちゃんと動けるか確認する。問題ナシ!


「よし!行くぞ!」


 地面を強く踏みしめ、走り出す。


 瞬間


 ゴォッ!


 という音と共に、世界が後ろ向きに流れていった。



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