Day03 飛ぶ

 コルク栓頭の冨樫さん夫妻は愛息子のために森林公園へピクニックに来ている。愛息子は色々なものに興味を持ち、池の鯉に触ろうと桟橋から手を伸ばして落ちそうになったり、きらりと光って飛んでいたシオカラトンボに惹かれて追いかけていたら躓いて転んだり、目が離せないほどお騒がせな愛息子に夫妻は落ち着いていられない。

「ちゃんと前見ないとぶつかるよー」

「だーいじょーぶー」

 愛息子は後ろ向きに歩いていると、囲いのない地面から噴き出した水を思いっきり被る。びしゃびしゃに濡れた原因はなんなのか、愛息子は何か分からず、ポカンと口を開けて両親を見ていた。

「ほらー言わんこっちゃない、前を見ないから噴水でずぶ濡れになっちゃった」

「ふんすい?」

 妻は愛息子の手を強く引っ張り、いつ水が吹き出すか分からない地面を見ていた。

「ママ、何が起こるの?」

「見てて」

 妻はじっと見つめている。愛息子も一緒になって待つ。すると水が勢いよく噴き出したかと思えば、ランダムに縮んだり伸びたりして見世物を彩る。初めて見た噴水に愛息子は夫の裾を引っ張ってお願いをする。

「パパー。僕も噴水みたいに、バーン! って飛んでみたい!」

「よーし分かった」

 夫は荷物を下ろして自分の身を軽くし、両手両足を振って軽く準備運動をする。

「行くぞ! そーれ!」

 愛息子の両脇を抱えて、掛け声と共に持ち上げて少しだけ空に手を離す。

「わあ! 飛んだ! 飛んだ!」

 夫は数回それを繰り返すと、愛息子を下ろして膝に手をついた。

「パパー、もっとー」

「ちょっと、無理……」

「あなた大丈夫?」

「ああ、あそこの木陰で休めば、大丈夫」

 指先の方向には心地良さそうな木陰があった。木陰の下に着くとレジャーシートを敷き、朝早くから作ってくれた妻のお弁当を美味しそうに食べる。夫は腹を満たすと寝っ転がって寝息を立てた。しかし愛息子は目の前を飛んでいった蝶々を追いかける。

「あ、こら!」

 妻は寝ている夫を放置し、蝶々を追いかける愛息子を追いかける。


 終

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