第16話 感情
夕食の時間になり、大きなテーブルに僕とリトリシエは向かい合って座っていた。周りには使用人がいるため、2人きりという訳では無いが。
リトリシエ.....いや中身はクラウシア様だから、クラウシア?どう認識したらいいのだろうか...。実際に彼女を目の前にするとやはり信じられないなと思う。
だが仕草一つ一つが、リトリシエとは異なっていた。
彼女はこのような食事は初めてのようで、ずっとそわそわしていた。国の聖女と言われているのだから、てっきり僕のような公爵家以上に贅沢な暮らしをしていると思ったが、そうではないようだ。うちの食事が彼女の口に合うか心配だったが、口に入れた途端幸せそうな表情をしていたから安心した。
その後夜会の話をしたが、彼女は僕の予想とは違う反応をした。行きたくないと言うと思ったのだが、なんというか.....。とても目を輝かせている。リトリシエは元々整った顔をしている。だが少しつり目気味の彼女の笑った顔など僕は見たことがなかった。そんな彼女の顔でクラウシアは色々な表情をしている。そんな彼女が無性に、かわいいと感じた。人に対してかわいいという感情が芽生えたのはこれで2度目だ。
―――――――――
「ドレスの仕立て屋を呼んでくれ。」
「は...?スレン様、もしかしてそういう.....?たしかに顔は整ってるから、メイクとかしたら女性に見えなくもないかもだけど.....。」
「僕が着るわけないだろう」
「あ、ですよね。...え?じゃあ何のために仕立て屋を?」
こいつは何を言ってるんだ?夜会に参加することが決まったのだ。ドレスを贈るのは当然だろう?意味が分からないという表情をしていると、カイルはもっと意味がわからないという表情をした。
「だって、リトリシエ様とそんなに仲良くなかったじゃないですか」
こいつ、中々ストレートに物申すのだな。確かに仲良くはなかったが。はぁ、とわざとらしげにため息をつくと、カイルはにやりとして僕に顔を近づけてきた。
「もしかして、リトリシエ様の御心でも覗いたのですかぁ?レディの心を読むなんて、失礼ですよ〜。」
こいつめちゃめちゃニヤニヤしてくるな。やめて欲しい。だがこいつは僕の能力について知る数少ない人だ。というか、僕の能力を知っているのは、父とカイルだけだ。カイルにしられたのはまぁ、事故みたいなものなのだが。こいつはこう見えてとても口が堅い。多少の秘密なら話しても大丈夫だろう。
「実は彼女、リトリシエではないみたいなんだ。」
「.........は?」
まぁ、そうなるよな。
―――――――――
「つまり、リトリシエ様の中身は別人なのか。その中身は誰なんだ?」
「さぁ?僕にはわからない。」
本当は知っているんだが.....。言いたくない.....。10歳のときに初恋した女性だなんて。
特にこいつに言ったら、絶対笑うだろう。
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