第15話 厄介事
「スレン様!!!リトリシエ様が!!!!」
やっと宴が終わったと思ったら、次はなんだ...。疲れを隠しながら伝達を聞く。だがその内容は思いもよらぬものだった。
───
リトリシエが事故に遭ったと聞いたが、目立つ傷は何一つなかった。聖女様は.....。彼女は大丈夫だろうか。僕はリトリシエの寝顔を眺めながら想う。
リトリシエには聞きたいことが山のようにある。だがその前に、眠っている彼女の心を読んでしまおう。僕はそう思い、彼女の手に自分の手を重ねた。
だが、僕の頭に入ってきたのは思ってもいないものだった。
(この間の宴、私は失敗しなかったかしら)
(リトリシエ様お綺麗でした...)
(聖女という役目は私には荷が重いです)
眠っている人の思考は、普段考えていることや、夢の内容が多い。だがこれは、確実に、リトリシエではない。聖女様、クラウシアだ。人の中身が入れ替わるなんて前代未聞。知られれば大騒ぎになるだろう。だが僕は無性に嬉しかった。彼女はリトリシエだが、中身はクラウシアなのだ。これで僕は彼女と一緒に居れるということだ。僕はただ、無性に嬉しかった。だから暫くは気づいていないフリを続けよう。そう誓った。
しばらくしてリトリシエが目覚めたという報告があった。本当は部屋まで行き見舞いをしたかったが、聖女様とは婚約している仲ではない。それに僕のことも覚えていないだろう。そんな見知らぬ男が急に部屋を訪れても困惑するだけだ。そう思い夕食に招待することにした。
―――――――――
「スレン様。ご夕食の前に少しお話が。」
僕の仕事の補佐をしてくれているカイルに呼び止められた。どうやら少し面倒な事なのだろう。彼の表情がそう語っている。カイルは無言で僕に、1枚の手紙を差し出した。
「夜会の招待状です。婚約のお祝いも兼ねるので是非とも『お2人で』との事です。」
「リトリシエの事故の件は伝わって居ないのだろうか。」
「招待状で、事故に触れておられるので、ご存知だとは思いますよ。」
「はぁ...。公爵家の信頼を落としたいようだな。」
身分の高い家ほど夜会などへの出席は積極的に行うものだそうだ。だが公爵家などになれば、自ら参加せずとも、必ず招待状が届く。だが、招待状が届いたのに参加しないというのは、失礼に値する。しかし今回はリトリシエが事故に遭ったのだ。暫くは休養が必要だ。参加しなくていいだろう。
「不参加と伝えておけ」
「それが厳しいのですよねぇ。もう一通厄介なものが届いておりまして。」
「今度は何だ.......。」
僕は受け取った手紙の内容を見て顔を歪めた。
「リトリシエの事故は隠蔽する、か。」
「事故のお相手が国の聖女様ですからねぇ。聖女様に何かあったとなれば、国への批判は免れない。だから隠蔽というのが手っ取り早いですね。」
「つまり、夜会は参加しなければならないのか。」
「そーゆーことですよ。リトリシエ様が事故に遭ったから参加できません。という理由は使えないですからね。」
「はぁ、本当に厄介だ。」
できるだけ彼女に負担をかけたくない。特にいきなり別の人になったのだ。困惑しかないだろう。精神的にも肉体的にもしんどい彼女を振り回すようなことはしたくなかったが、今回は仕方ないのだろうか.....。
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