第10話 呼び方
「だっ、旦那様…!これを…!」
私は緊張で赤くなった顔を隠すためにお辞儀のポーズをして、ハンカチを差し出しました。
「リトリシエ、これが、どうしたのです?」
思ってもいない返事にびっくりして私は顔を上げました。旦那様はとてもにやにやしておられます。まさか、最後まで言えと言うのですか…?
この国での習わし、ハンカチを贈る時は嘘をつかず自分の本当の気持ちを伝え無ければならない。というものがあるようです。
「あ、えっと…このハンカチを受け取ってください!!喜んでいただきたくて、とても、頑張って、刺繍しました…。」
恥ずかしすぎて最後の方はほとんど声が出ませんでした。すると旦那様が急に、私の手をハンカチごと包み込み顔を近づけてこられました。
「ハンカチ、ありがとう。リーシェ」
「……リーシェ?」
「賭けは僕の勝ちだから、これからは敬称も敬語もなしだよ。もちろんリーシェも。僕のことはスレンと呼ぶように」
そんなこと耳元で囁かれましても!!あだ名で呼ばれるの初めてですし、そもそも最近の私はなんか変なのです!!旦那様と目が合う度にドキドキしてしまうし、今回のハンカチだって、無意識のうちに喜んでもらいたいなんて思ってしまって。
「それにしてもリーシェ、僕に喜んで貰いたくてがんばって刺繍したと言ってたね。賭けに負けると知っていて、それでも喜んでほしいなんて、本当に可愛いな」
「っっ!!!!」
ちょ、だんなさ...スレン!!!...様!!!そんな事言わないでください!!なんですか可愛いって!!!
「スレン様、じゃなくてスレン、だろ?」
「あ、そうでした.....え?」
スレンさ...スレンは私の手をぎゅっと握りながらそう言いました。でも私.....
「私、さっき一度もスレン様と口に出しておりません。」
スレン...はどんどん顔色を悪くしていきます。何かあったのでしょうか。もしかして私なにかやらかしました?!
「えっと、その、すまないリーシェ」
「え、そんな急に謝られましても!!」
急に謝罪をされても困ります!!別に謝って欲しい訳ではなくて、本当にびっくりしちゃっただけです!!!もしかしたら私無意識に、スレン様と口に出していたのかもしれませんし!!!
「そろそろ、君に本当のことを話したい。」
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