第9話 ハンカチ
「旦那様、それは無理です。」
「いいや、そんなことは無い。」
初デートから2日後、私は旦那様に壁に追いやられています。
何故こんなことになったのか。遡ること1時間前
「お嬢様!この間の初デート!どうでした?」
セレーナ、とても楽しそうですね…
「この間話していたカフェに連れて行ってもらったわ。とても綺麗で美味しかったわ」
「やはりあのカフェに…!私、スレン様に、お嬢様があのカフェに行きたいらしいですよ!と伝えた甲斐がありました!!」
「貴方が伝えたのですか!!」
任せてってそういう事だったのですね!何だか全てが腑に落ちました……。
「ところでお嬢様、もちろん、スレン様にハンカチを贈られるのですよね!」
「は…ハンカチ?」
「えぇっ?!お嬢様、ご存知ないのです?!」
ごめんなさい、本当に身に覚えがありません…。ハンカチということは刺繍、でしょうか?私刺繍は苦手なので嫌ですわ……。
「お嬢様、1週間後は、女性が愛する人にハンカチを贈る日なのです!」
そんなのあったのですか!!!
「お嬢様、もしかして贈らないおつもりで?」
「いえ、その、私刺繍が苦手なので…」
「そんなの関係ありません!!愛する人から貰ったものはどんなものであれ宝物なのです!!」
「旦那様、そう思われるかしら」
「そうですか。ではお嬢様。ご自身で聞きに行ってはどうですか。」
そして今に至ります。
「旦那様、私は本当に刺繍が出来ないのです。こんなもの渡されても嬉しくないと思います。」
「いいえ、そんなことはありません。」
「どうして言い切れるのですか」
本当にしょうもない話だとは思っています。でもどうしても私の下手な刺繍の入ったハンカチを、旦那様に持たせたくないのです!!お願いします旦那様。引いてください。
「はぁ、わかりました」
旦那様………!!分かってくださるのですね!
「では賭けをしましょう。僕が貴方のハンカチを受け取って本当に喜ばなかった場合は、婚約破棄でもなんでも、貴方の言うことを聞きましょう。でも、僕が喜んだ場合は、お互い、敬語敬称は無し。どうでしょう?」
前言撤回。分かってなんていませんでした。勝手に話を進めないでください。私はどうにかして逃げられないかと辺りをきょろきょろします。ですか、旦那様は逃がさないと言わんばかりの目でこちらを見つめてきます。私本当に刺繍が嫌なのです…!というか、敬称なしというのは旦那様にとってどんなメリットが?!?!なんもありませんよね!!!!!
こうして私は、渋々ハンカチに刺繍をすることになったのです。
―――――――――
「はぁ、だめです…」
「お嬢様、これでダメにしたハンカチ、10枚目です。」
「お願い、数えないでセレーナ」
丸1日かけて構図を考え、今、刺繍に取り掛かっています。全然上手く行きません。何回も指に針を刺し、セレーナが顔を青くしていました。
本当に、不器用でごめんなさい…。
刺繍が成功したのは贈る日の前日でした。
「やりましたセレーナ!!私、なんとか人前に出せる程度には出来ました!」
「よかったですわね!お嬢様!これで喜んでもらえますね!!」
「えぇ!喜んでくれるはずです!!!」
明日旦那様に渡すのが楽しみです!!!
「…あれ?」
「お嬢様?どうかなさいました?」
「私、何かを忘れているような…」
『賭けをしましょう』
旦那様の声が脳内再生されます。
あああああぁぁぁぁ!!!私は!!なぜ!!
喜ばせたら私の負けではないですか!!!
刺繍をしてるうちに、綺麗なものを旦那様に渡したいとか思ってしまって!!かんっっぜんに賭けを忘れていました!!!!失敗したやつを贈りましょうか!!!
「お嬢様。何があったのかは存じませんが、喜んでもらえるのがいちばんだと思いますよ」
セレーナ、いい事を言いますね…。心に響きます。よし。負けでもなんでもいいです。
ですが喜んで貰いたいなんて思って刺繍したなんて…。私は恋する乙女か何かでしょうか。
聖女は人に恋なんてしてはいけないのに…
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