第2話 距離感
髪の色が違います.....。
私の髪は桜色のふわふわした感じです。なのに今の私の髪は薄い水色のストレートです。クセもありません。しかも水色の髪というのはこの国では珍しいのです。特に女性では、ほとんどお見かけしません。私も、この髪色の女性はこの間の宴でのリトリシエ殿下しか存じ上げません。
リトリシエ殿下しか.........。
私の中で嫌な予感がしました。
まさか、そんなはずあるわけないですよね...。
―――――――――
しかし私の期待はあっさりと裏切られてしまいました。
「リトリシエ様、お目覚めになられてよかったですっ!今お医者様をお呼びします!」
部屋をノックして、侍女の方が言いました。
り、リトリシエ.....さま.....。
そう言われても簡単には信じられませんので、私は部屋にある鏡の方へ向かいました。
そこに映っていたのは.....
つり目の黒い瞳、水色の髪。
間違いなくこの間の宴で見たリトリシエ殿下のお顔です。
つまり私は、死んで、その後何故かリトリシエ殿下になってしまったということ.......?
よくわかりませんわ.......。
―――――――――
しばらくして、お医者様がいらっしゃいました。リトリシエ殿下は宴が終わってから馬車での衝突事故により生死をさまよったそうです。
つまり、そうです。私の乗っていた馬車と、リトリシエ殿下の乗っていた馬車が衝突したのです。
こんなの、偶然なのでしょうか.......。
とりあえず、私が実はリトリシエ殿下ではなく、クラウシアだったと、世間にバレたらまずそうなので、私、頑張ってリトリシエ殿下を演じてみます!!!
「容態は安定してますね。少し安静にしたら大丈夫でしょう。なにかあればまた私共をお呼びください。」
「わかりました。」
お医者様は丁寧に診察してくださり、お帰りになられました。本当は一緒に少しお茶でも...と思ったのですが、リトリシエ殿下ならこんなことなさいませんよね。あの方は「氷の令嬢」。人に優しくされることはなかったようです。
優しくすると相手も自分も嬉しくなるのに、殿下はなぜ優しくされなかったのでしょうか.....?
―――――――――
私は今、スレン様と向かい合って座っています。
彼の目、とても怖いです.....。リトリシエ殿下を「氷の令嬢」と言うならば、この方は「氷の公爵様」?とかになるのですかね...。
そんなことを考えていると、お食事が運ばれてきました。そうでした。私、スレン様に夕食に呼ばれたのでした。
スレン様とリトリシエ殿下、どのような距離感だったのでしょうか.....!!私、存じ上げません!それにお食事も.......。
私がテーブルに目を向けると、普段食べていた、庶民風のものではなく、とても豪華な、The貴族みたいなお食事でした。美味しそうだけれど、わたくしがこんな豪華なもの、食べていいのでしょうか.....。
「リトリシエ」
「!!!っはい!!」
急に名前を呼ばれ咄嗟に返事をしました。
スレン様に話しかけられるとは.....。
「貴方の事故だが、今のところ内密にするそうです。世間に公表はしません。」
「...はい。」
「そしてもうひとつ、来週行われる夜会への招待状が届きました。」
まぁ!夜会ですか!とても興味がございました。でも私、人と関わるのが苦手なのでできれば御遠慮したいところではあるのですが.....。
ちらりと横目でスレン様を見ると、少し困ったような顔をして言った。少しと言っても、本当に少しですよ?
「実は、少し引っかかるところがあるんです。」
ほぅ。私は少し前のめりになって聞きます。
「本来ならば、貴方は事故に遭ったばかりなので、夜会はお断りするものです。しかし、世間に事故を公表するなと言うご指示があった今、事故を理由に夜会を辞退することが出来ないのですよ。この意味、分かりますか?」
すみません。分かりません.....。
私はふるふると首を横に振ります。
「つまりですね、理由もなく公爵家次期当主夫妻が夜会の招待を断った、と世間には見られるのです。これでは公爵家の信頼が欠けてしまいます。」
なるほどです!つまり、参加しないという選択肢はないのですね。残念です.......。
でも夜会には綺麗なドレスに素敵なお食事があると聞きました。少し、少しですよ!興味はあります。
「ところで、どうしてこの話を私に?」
「貴方に、参加したいかどうかを聞くためです。」
はぇ?そんなの参加する以外の選択肢ございませんよね?どうしてそんなことお聞きになるのでしょう。
「もちろん参加いたします。準備も考えないといけないですね。」
そう言うとスレン様は少し驚いたような表情をし、頷きました。
うぅ...この方との距離感.....難しい...
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