第1話 氷のような



「聖女さま!!!」

「クラウシア様!!!」

「聖女様万歳!!!」


街の人々からそう呼ばれる私は、聖女クラウシア。この国で聖女をやっています。

とはいえ特に大きなことはしておらず、貧民街などに行き、支援などを行うなど、かなり国民の方と近い距離で接しています。聖女という肩書きが無ければ、ただの親切なお姉さん、と言ったところでしょうか。


さて、私は手元にある、何やら凄そうな、とても豪華なお手紙に目を落とします。1ヶ月後にとあるご令嬢と公爵家次期当主のご婚約が決まった宴が行われるそう。それに、心優しき聖女として参加してくれないかと私へ招待が届いたのです。

このような、貴族の方がたくさんいる場所、私苦手です.....。かしこまった会話も、ダンスも、何もかもが苦手なのです。

私は貧民街の子供たちと楽しくお話して、みんなに笑顔になってもらう。それだけで良いのに...。

だから正直断ってしまいたいのですが...さすがに無理ですよね.......。



―――――――――


1ヶ月というのは長いようで、とても短いものです。

私は薄い黄色のドレスを身にまとい、宴の行われる会場へ足を踏み入れます。

聖女は普段は純白のドレスを着ますが、ご婚約お祝いの宴で、私が純白のドレスを着るのは筋違いというものでしょう。

それに私は淡くて優しい、暖かい色が好きなので!この黄色のドレス、気に入っております!


「聖女クラウシア様」

「はっ、はい!!」


急に名を呼ばれ声が裏返ってしまいそうになる。

.....あぶない。大勢の前で恥をかくところだった...。


「このような宴に足を運んでくださりありがとうございます。とても嬉しく思います。貴方様のような、心優しく美しい方にお祝いいただけないかとご招待させていただきました。」


彼はおそらくこの宴の主役、公爵家次期当主のスレン・ディオルド殿下です。ありがとうとか、嬉しいとか口に出されておりますが、表情は全く変わっていないようです。

表情筋をもっと動かすべきなのに.....!

そんなことを考えていると、彼の隣からさらに冷たい声色か聞こえてきました。


「わたくしの方からも、ありがとうございます。本日の宴、楽しんでくださいね。」


こちらの方もなかなかに冷たい.....。

彼女はスレン殿下とご婚約なさったリトリシエ様のようです。巷では「氷の令嬢」なんて呼ばれるほど冷たいお方のようです。

ですが、これで屈していては行けません!私!しっかりしませんと!!


「こっ、このような場にお招き頂きありがとう、ございますっ!私からも、おふたりのご婚約、心からお祝い申し上げます!神の祝福がございますように.....。」


そう言い、私は両手を胸の前で組む。そうすると周りか、きらきらとした黄色の光がおふたりを包みます。私だって、お飾りの聖女じゃないのです!祝福の加護、使えます!


すると周りの方々から歓声が上がりました。

スレン殿下もリトリシエ殿下も感心なされていようです。良かったです。


「それでは私はこれで失礼させていただきます。」


そう言い、私は会場の隅に行きました。

このままできるだけ人と関わらずにやり過ごします。


――――――


そうしていると、どうやら宴は終わりの時間になったようです。ちなみに私は結局、色々な方に話しかけられ大変でした。ずっとニコニコするのも辛いものです。


そうして帰路に着こうと思った時、事件は起きました。

私が乗っていた馬車が、他の馬車と衝突し、転落してしまったのです。

身体に激痛が走ります。

しばらくすると手足の感覚が無くなってきました。あぁ、私はそろそろ死ぬのですね。そう思いました。たくさんの国民の方々に笑顔を届けれて、とてもいい人生だった。そうして私は目を閉じました。



―――――――――


「ん.......。」


どうやら長いこと眠っていたようです。私は目を擦りながら上半身を起こします。


「生きていたんですね.....」


そう口にしたとき、部屋の入口に侍女と思しき女性が立っていることに気がつきました。


「おはようございます!」


私はそう言うと、彼女は青ざめて部屋を出て走っていってしまいました。私、なにかしましたかしら.....。


そういえば、声を出した時に違和感が.....。


そう思いながらさらっと自分の髪を指で梳きました。その時、ありえないほどの違和感を感じました。

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