第3話
「お兄様! 行きますわよ!」
「うん、ミリナ……行こうか」
妹の元気溌剌さに若干引き気味のわたしである。妹は魔法学校に行くのが楽しみで仕方ないらしい。
「魔法……使えるかなー」
「使えると思うよ」
馬車の中でもわくわくとしている妹を微笑ましく思った。そして学校に着く。
「わあ!」
「着いたね」
大きなお城のような建物がこれからわたしたちが通う聖マリナ魔法学校だ。学校名は初代聖女の名前からとってある。
「頑張ってきますねお兄様」
「うん、頑張って」
妹とは教室が違うので玄関先で別れる。教室の行き方は体の記憶でわかった。
「レン、おはよう」
「お、おはよう」
声をかけられた。この声はジョッシュだ。レンとジョッシュはよくつるんでいた友達だ。だから挨拶くらいなんてことないはずだがわたしの心臓は弾け飛びそうだ。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない」
できるだけ平静を装って席に着く。授業は淡々と進められた。初級光魔法の訓練だ。妹ではないが魔法の行使ができることに興奮してしまった。
中休み。わたしに声をかけるものはジョッシュ以外いない。
「これは難しいぞ」
「なんか悩んでるの?」
ジョッシュが声をかけてくれる。
「ちょっとね」
「ふーん」
素直に話すわけにもいかないから濁したがなんだか胸が痛む。わたしがくる前のレンは何を思っていたのだろう。
そんななか、窓から中庭を見ると一人の女の子が大勢の女の子に囲まれていた。ただ事ではない雰囲気に目が吸い寄せられる。
ふと大勢の中から女の子が進みだし、一人の女の子を突き飛ばした。いじめだ。これはいけないと窓から声をかけようとしたそのとき。
「こらー」
聞き馴染みのある声がする。
「! ミリナ様!」
とたんに大勢の女の子が傅く。ミリナは相当権力者だったのか。
「こんなことしちゃダメでしょ!」
「、すみません」
「だいじょうぶ?」
「だいじょうぶ、です!」
もういいよとミリナが目配せすると大勢の女の子はすごすごと去っていく。
「ミリナ! 大丈夫か」
わたしも窓から声をかける。
「お兄様! だいじょうぶです!」
妹は親指を立てて見せた。それから妹は女の子とおしゃべりしながらどこかにいった。妹はうまくやっているようだ。わたしはーー。
「めずらしいな」
「わ! ジョッシュ」
「お前が平民を気にかけるなんて」
平民?と思ったがさっきいじめられていた子か。当たり前だ。元のレンならともかくわたしは格差などよくわかっていない。いじめられていたら気になる。
「ちょっと心境の変化があって」
「へえ」
ジョッシュは興味深そうに返事をした。そんなにありえないことなのだろう。レンが平民を気にかけることは。改めて自分の(自分ではないが)性格の悪さを呪う。
「次の授業に行こう」
「ああ、うん」
ジョッシュに促されて教室を移動する。わたしは友達はジョッシュがいればいいかと思い始めた。
悪役令息は妹とともに足を洗う おおつ @jurika_otsu
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